特集

映画に隠された恋愛哲学とヒント集75:どっちの愛が本物?

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『熱のあとに』橋本愛/仲野太賀

ネタバレ注意!

新宿で起きたホスト殺人未遂事件から着想を得て作られた『熱のあとに』では、主人公にとって、包丁で刺してしまうほどの激情を伴う愛情を感じる相手と、自分自身でも“好き”の実態が掴めないまま一緒にいて心地良い相手が登場します。

“本物の愛”の定義とは?

映画『熱のあとに』橋本愛

ある日、主人公の沙苗(橋本愛)は、愛していたホストの隼人(水上恒司)を包丁で刺してしまいます。それから6年後、沙苗は刑務所から出所し、母がセッティングしたお見合いで健太(仲野太賀)と出会います。生気がない沙苗を目の前にして、健太も別の事情があってお見合いにきただけだと打ち明けます。そこで、沙苗も自分の過去を健太に明かします。まったく噛み合わないように見えた2人は、その後に結婚。どこか割り切ったような関係でありながら、2人は穏やかに結婚生活をスタートします。でも、沙苗の過去に深く関わる人物が現れたことで、沙苗と健太の関係も大きく変化していきます。

劇中には、カウンセリングに通う沙苗が自分の気持ちを話す場面が複数回あります。そのシーンでは、彼女にとっての本物の愛はどのようなものかが語られます。そこで、隼人と健太それぞれに対する気持ちの違いがわかります。また、日常の中でも沙苗が隼人への気持ちを捨てきれずに葛藤する場面があり、隼人への“熱”は冷めていないことが伝わってきます。

映画『熱のあとに』橋本愛/仲野太賀

気になるのは、沙苗の様子だけではありません。健太や、謎の人物、足立よし子(木竜麻生)、健太と同じ会社で働く宇佐見美紀(鳴海唯)が、翻弄されていく様子を合わせて観ることで、本作に描かれる愛情には大きく分けて2つのパターンがあることに気付きます。

本作で描かれる愛情の2つのパターンは、自分が愛を求める側と求められる側という違いがあったり、激しさがあるかないかという違いがあったり、観る方によって解釈が変わると思います。自分が追いかける側のほうが良いのか、追いかけられる側のほうが良いのか、好きだという実感がないと物足りないのか、いつも穏やかな気持ちでいられる相手のほうが良いのかといった議論は、皆さんも恋愛話をしていて出てきた経験があるのではないでしょうか。当たり前の話ですが、どちらが正解ということはないでしょう。一生どちらかのパターンしか経験しない人もいれば、時を経てパターンが変わる人もいると思います。

愛情の種類がそもそも違うという解釈もあります。ありきたりな表現でいえば、恋愛関係なら激しい愛情もありだけど、結婚生活には穏やかな愛情のほうが向いているという考え方もあります。また、どちらかのパターンだけしか経験がなかったところ、もう一方のパターンを経験したことで変化が起きるというケースもあり得ます。例えば、平凡な主婦がある日出会ったカメラマンと4日間の濃厚な恋愛を経験する『マディソン郡の橋』は、『熱のあとに』の激しい愛情とは種類が異なるものの、穏やか結婚生活から情熱的な恋愛へという流れでいえば『熱のあとに』とは逆のパターンといえそうです。

映画『熱のあとに』橋本愛/仲野太賀

『熱のあとに』は、愛した相手がホストという職業なだけに、疑似恋愛だった可能性は否めません。とはいえ、好きになった側からすると、そこはもう関係がなくなります。それが本物の愛なのかどうかは誰にもわからないとして、報われない相手にもかかわらず、深い愛情を抱き続けることで、余計に自分が愛している証拠だと錯覚してしまう可能性もあるのではないでしょうか。

こうして考えてみると、何が本物の愛かという答えを出すのは難しいですね。『熱のあとに』を観ると、沙苗の成長による変化が、彼女が求める愛情の変化をもたらしているように受け取れます。これはこれで1つの答えだと思います。皆さんにとっては、何が本物の愛なのか、昔の自分、今の自分で比較してみると、ヒントが見つかるかもしれません。

映画『熱のあとに』橋本愛/仲野太賀

『熱のあとに』
PG-12
2024年2月2日より全国公開
公式サイト ムビチケ購入はこちら

©2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha

『マディソン郡の橋』
Amazonプライムビデオで観る Amazonでブルーレイを購入する U-NEXTで観る

TEXT by Myson

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』ビル・スカルスガルド ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝【レビュー】

実に楽しい!良い意味で「なんじゃこりゃ?」というハチャメチャなノリなのに…

ポッドキャスト:トーキョー女子映画部チャンネルアイキャッチ202509 ポッドキャスト【トーキョー女子映画部チャンネル】お悩み相談「どうしたらいい出会いがありますか?」他

今回は、正式部員の皆さんからいただいたお悩み相談の中から、下記のお2人のお悩みをピックアップして、マイソンなりにお答えしています。最後にチラッと映画の紹介もしています。

映画『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』ベニチオ・デル・トロ/ミア・スレアプレトン/マイケル・セラ ザ・ザ・コルダのフェニキア計画【レビュー】

REVIEWこれぞウェス・アンダーソン監督作という、何から何までかわいい世界観でありながら…

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

映画『こんな事があった』前田旺志郎/窪塚愛流 こんな事があった【レビュー】

2021年夏の福島を舞台に、主人公の17歳の青年のほか、震災後も苦悩しながら生きる人々の姿を…

映画『パルテノペ ナポリの宝石』セレステ・ダッラ・ポルタ セレステ・ダッラ・ポルタ【ギャラリー/出演作一覧】

1997年12月24日生まれ。イタリア出身。

映画『ブロークン 復讐者の夜』ハ・ジョンウ ブロークン 復讐者の夜【レビュー】

『工作 黒金星と呼ばれた男』『アシュラ』などを手掛けたサナイピクチャーズが贈る本作は…

映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』西島秀俊/グイ・ルンメイ Dear Stranger/ディア・ストレンジャー【レビュー】

真利子哲也監督(脚本も担当)による西島秀俊主演作という情報のみで、毎度ながら前情報をほぼ入れずに観て、いろいろ良い驚きが…

映画『風のマジム』伊藤沙莉 風のマジム【レビュー】

マジムって何だろうから始まり、すぐに主人公の名前とわかると、次に「じゃあ、風のマジムってどういうことなんだろう?」という具合に…

映画『ベスト・キッド:レジェンズ』ベン・ウォン ベン・ウォン【ギャラリー/出演作一覧】

2000年1月1日生まれ。中国、上海出身。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 この映画で問いかけたい「宝」とは…大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート後編

前回に引き続き今回は映画『宝島』の部活リポートをお届けします。後編では、事前に正式部員の方々にお答えいただいたアンケート結果について議論しました。今回も熱いトークが繰り広げられています!

映画『宝島』部活:座談会/大友啓史監督 ファストムービー時代の真逆を行こうと覚悟を決めた!大友啓史監督と語ろう『宝島』部活リポート前編

『るろうに剣心』シリーズ、『レジェンド&バタフライ』などを手掛けた大友啓史監督が<沖縄がアメリカだった時代>を描いた映画『宝島』。今回、当部の部活史上初めて監督ご本人にご参加いただき、映画好きの皆さんと一緒に本作について語っていただきました。

映画『宝島』妻夫木聡/広瀬すず/窪田正孝 沖縄がアメリカ統治下だったことについてどう思う?『宝島』アンケート特集

【大友啓史監督 × 妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太】のタッグにより、混沌とした時代を自由を求めて全力で駆け抜けた若者達の姿を描く『宝島』が9月19日より劇場公開されます。この度トーキョー女子映画部では、『宝島』を応援すべく、正式部員の皆さんに同作にちなんだアンケートを実施しました。

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『ふつうの子ども』嶋田鉄太/瑠璃
  2. 映画『ネクスト・ゴール・ウィンズ』マイケル・ファスベンダー
  3. 映画『バーバラと心の巨人』マディソン・ウルフ

REVIEW

  1. 映画『ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝』ビル・スカルスガルド
  2. 映画『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』ベニチオ・デル・トロ/ミア・スレアプレトン/マイケル・セラ
  3. 映画『こんな事があった』前田旺志郎/窪塚愛流
  4. 映画『ブロークン 復讐者の夜』ハ・ジョンウ
  5. 映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』西島秀俊/グイ・ルンメイ

PRESENT

  1. 映画『ホーリー・カウ』クレマン・ファヴォー
  2. 映画『ぼくらの居場所』リアム・ディアス/エッセンス・フォックス/アンナ・クレア・ベイテル
  3. 映画『ミーツ・ザ・ワールド』杉咲花/南琴奈/板垣李光人
PAGE TOP