映画『ホムンクルス』を観ていたら、「あれ?右脳と左脳ってそれぞれどんな働きをしているの?」と気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は右脳と左脳の働きについて簡単にご紹介します。ただ、『ホムンクルス』そのものの解説というわけではなく、あくまで現実的な脳についてのお話です。
大脳半球は左右で形態は対称的だけど、機能は別々
右脳と左脳で働きが異なることは周知のことですが、具体的にそれぞれどんな働きをしているかというところから見ていきましょう。人間のみが持つ特殊な能力といえば言語機能ですが、失語症の治療、研究が左脳の特定の部位の働きを解明する糸口になりました。
岡田他(2015)によると、1861年、フランスの外科医ブローカは、失語症患者の死後の解剖によって、左大脳半球の前頭葉後部に脳梗塞による損傷を見出し、発話できない症例の脳損傷部位の検討を重ねた結果、人間は左半球で喋っているとの見解を1865年に発表しました。このような失語症をブローカ失語または運動失語と呼び、発話に重要な前頭葉後部領域をブローカ領域といいます。また、精神科医のウェルニッケは、饒舌に話すことができるが聞いた内容を理解できないタイプの失語症について、左半球の側頭葉上部に損傷があることを見出しました。このような失語症はウェルニッケ失語あるいは感覚失語と呼ばれ、発話の理解に重要と考えられている側頭葉上部はウェルニッケ領域と呼ばれています。
一方、右脳の機能は何かというと、視覚的には顔や複雑な幾何学パターン、聴覚的には非言語的環境音、音楽、体性感覚としては、複雑なパターンの触覚的再認、点字の認識、その他、非言語的記憶、方向感覚などを司るとされています。視覚において左脳は文字や単語を理解すると言われており、左視野からの信号は右脳へ、右視野からの信号は左脳へ送られるので、刺激方法を工夫することによって、左右の脳に別々の視覚刺激を提示することができます(岡田他,2015)。
映画『ホムンクルス』で主人公は、右目を隠して左目で相手を見ようとします。左目で見たものは右脳へ信号が送られるということになります。映画のように、同一人物があそこまで全然違う姿で見えることは現実的にはあり得ませんが、脳の働きの構造を意識した設定ということはできるのかもしれませんね。でも頭蓋骨に穴を開けて何が起こるのかは、また別の話です(苦笑)。
<参考・引用文献>
岡田隆・宮森孝史・廣中直行(2015)「生理心理学 第2版―脳のはたらきから見た心の世界―」サイエンス社
『ホムンクルス』
2021年4月2日より期間限定公開
PG-12
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
頭蓋骨に穴を開けるトレパネーションという手術をしたことにより、今まで見えていなかったものが見えるようになった主人公のお話。手術を受けた主人公ではなく、主人公が接する相手の心の病が取り除かれていくという設定がユニークです。
©2021 山本英夫・小学館/エイベックス・ピクチャーズ
『ラチェッド』
Netflixにて配信中
ジャック・ニコルソン主演の名作『カッコーの巣の上で』に登場する看護師ラチェッドを基に描いたドラマで、物語の舞台は精神病院です。本作でも頭蓋骨に穴を開ける手術が出てきます。
『ハンニバル』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVDレンタル・発売中
ハンニバル・レクター博士は人肉を食べますが、まだ生きて話している相手の脳を開いて、調理する場面は衝撃的ですよね。でも、あのシーンを観ると脳の部位がそれぞれに違う働きをしているからこそ、あんな状態になるのだとわかります。
TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)