心理学

心理学から観る映画6-2:人はなぜデマとわかっても反応するのか?【同調】

  • follow us in feedly
  • RSS
海外ドラマ『ウォーキング・デッド シーズン7』ジェフリー・ディーン・モーガン/アンドリュー・リンカーン

前回に引き続き、新型コロナウィルスの問題が人の心理に及ぼす影響について考えてみたいと思います。2020年3月現在、マスクの品薄状態が続いていますが、トイレットペーパーもなかなか買えない状況が続いています。トイレットペーパーについては、在庫が充分あり、買えなくなるという情報はデマであることが広く報道されたにも関わらず、まだ買えない状態が続いていますが、その背景には人のどんな心理が働いているのでしょうか。

<参考・引用文献>
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
堀洋道・吉田富二雄・松井豊・宮本聡介ほか(2009)「新編 社会心理学〔改訂版〕」福村出版
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところを含め、一部本記事筆者の考察を加えています。

誰もがデマに流されているわけではないからこそ厄介

人は他者の存在により、判断や態度など、他者や集団が示す標準や期待にそって、同一あるいは類似する行動をとることがあり、これを同調と言います。そこには本来の自分の判断、行動とは異なった態度をとるという意味も含まれています。

アッシュは、7人のグループの中で1人だけが実験参加者、他6人はサクラという状況で、見本となる標準線分と、長さが異なる3つの比較線分を用意し、標準線分と同じ長さのものを比較線分から選ばせるという実験を行いました。標準線分と同じ長さのものは見た目に容易に判断できるように設定されていたにも関わらず、サクラが故意に誤った選択をすると、実験参加者は多数派に同調する行動を示しました。この実験では、123人の実験参加者のうち、誤答のなかった者はたったの25%、全体として誤答率は37%となりました。この実験結果のように、明らかに正答がわかっていても、一部の人には集団、他者に同調する行動が見られます。

そこには、情報的影響、規範的影響が働いているとされています。情報的影響下では、より適切な判断、行動を起こそうとして、他者から得た情報を客観的事実の基準として受け入れます。一方、規範的影響下では、自己を集団規範に従わせることによって、周囲の状況に適合しようとします。

同調の大きさを左右する要因はいくつか考えられますが、今回の新型コロナウィルスの問題から、課題の性質という要因に着目してみます。課題の重要性、困難度、曖昧さが増すにつれて同調率は上がるとされていますが、まさに新型コロナウィルスの問題は重要度が高く、問題解決が困難で、飛び交う情報も曖昧なものが多数あります。こういった状況の中では、たとえ噂がデマだったとしても、“念のため”と思ってトイレットペーパーを買っておくという人が増えてしまうのもわかります。

また、大勢の人々の間で同調が起きる時、集合的無知の影響も考えられます。例えば、授業の中で「わからないことはありませんか?」と聞かれて、誰も手を挙げないとします。手を挙げると理解できていないことがバレてしまうからという同じ理由で、誰も手を挙げていないとしても、個々には「皆は理解できてるんだ。理解できていないのは私だけなんだ」と、自分と他者が同じ行動を取っているのに異なる結論を導き出してしまうような状況を、集合的無知と言います。

ここからは私の考察になりますが、デマに流されてトイレットペーパーを買うためにお店へ急行した人達がいるのはもちろんですが、それがデマだったと公表されてからしばらく経った今でもトイレットペーパーが容易に買えない状況なのは、「買えてないのは自分だけ?」という不安が増幅して、急を要してないのに買っておく人達が多いからということも考えられます。一方で、この状況を悪用して買い占めている人がいる、値上げを狙って故意に出し惜しみをしている業者や店があるということも考えられますが、非常事態だからこそ、皆判断力を失い、普段だったら絶対に許されない悪人の行為もまかり通ってしまうのでしょう。

感染系のパニックを描いた映画やドラマなどには、「なぜそんなことをしてしまうのかわからない」「なぜ、そんな理不尽な支配に従うかわからない」といった状況が多く描かれていますが、こういった人間の心理から考えると合点がいきます。そんなおかしな世の中にならないように、今私達個々が冷静になる必要性を感じます。

ウォーキング・デッド コンパクト DVD-BOX シーズン7

『ウォーキング・デッド シーズン7』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

“救世主”と名乗るグループは、ニーガンというリーダーのもと、略奪や暴力を繰り返す。“救世主”達は、恐怖で支配するニーガンを崇拝し、残虐な行為も言われるがままに行っているが…。彼らがニーガンに従ってしまう背景には、同調などの集団心理が見える。

© AMC Film Holdings LLC. 2016 All Rights Reserved.

ブラインドネス [Blu-ray]

『ブラインドネス』
DVDレンタル&発売中

視力を失うという深刻な感染症が発生し、患者達は強制的に隔離施設に収容されるが、施設内は患者で溢れかえり、食糧不足などの問題も生じてしまう。そんななか、ある男が“王”と名乗り、独裁政治を始める。目が見えない、何が起こっていて、この先どうなっていくのかがわからない状況下で、人はどういう反応を起こすのかを観ることができる。

TEXT by Myson(認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX 4月2日(日)【ARUARU海ドラDiner】にて海ドラファン交流イベント開催決定!

日本初の海外ドラマをコンセプトとしたダイナー【ARUARU海ドラDiner】では、2023年4月2日(日)に海ドラファン交流イベントを実施します!

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー ザ・ホエール

愛するパートナーを失ったことで過食し、272kgの巨体になってしまったチャーリー(ブレンダン・フレイザー)は…

映画『リトル・マーメイド』ハリー・ベイリー おとぎ話の多様性

誰もが知っているおとぎ話も時代や作る人によってさまざまに描かれ、多様性があります。この特集では、キ…

映画『ハンサン ―龍の出現―』オク・テギョン オク・テギョン

1988年12月27日韓国生まれ。2008年に2PMのメンバーとしてデビュー。『シンデレラのお姉さん』で…

映画『マッシブ・タレント』ニコラス・ケイジ マッシブ・タレント

数々のヒット作、名作に出演し名声を得たニコラス・ケイジは…

映画『ロストケア』松山ケンイチ/長澤まさみ ロストケア

本作は、日本の介護問題に鋭く切り込んだ葉真中顕の第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作を…

映画『オットーという男』プレミア、トム・ハンクス、トルーマン・ハンクス トルーマン・ハンクス

1995年12月26日アメリカ、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。父はトム・ハンクス…

映画『ハンサン ―龍の出現―』キム・ソンギュン キム・ソンギュン

1980年7月5日韓国生まれ。演劇“ロミオとジュリエット”でデビューし…

海外ドラマ『THE LAST OF US』ペドロ・パスカル/ベラ・ラムジー THE LAST OF US

2013年にPlayStation®3専用タイトルとして発売され、全世界で200部門以上のゲームアワードを受賞した人気ゲーム“The Last of Us”を原作とする…

中国ドラマ『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』ヤン・ヤン/チャオ・ルースー 『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』オリジナルQUOカード(500円分) 3名様プレゼント

ドラマ『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』オリジナルQUOカード(500円分) 3名様プレゼント

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  2. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  3. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  4. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303イメージビジュアル

おすすめ記事

【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX 4月2日(日)【ARUARU海ドラDiner】にて海ドラファン交流イベント開催決定!

日本初の海外ドラマをコンセプトとしたダイナー【ARUARU海ドラDiner】では、2023年4月2日(日)に海ドラファン交流イベントを実施します!

AXN海外ドラマ『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』ローレン・ライリー 女性という理由で仕事に抜擢された女性刑事は上司や世の中を見返すことができるのか?『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』への期待

25年もの間、捜査が滞っていた未解決の殺人事件を任された、若き女性刑事カレン・ピリーの活躍を描く『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』は全3話で構成される英国ミステリーです。この度、本作を独占放送するAXNミステリーさんが…

【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ) 【ARUARU海ドラDiner】絶賛営業中!くじ引きで当たる海外ドラマ豪華グッズ紹介とこぼれ話

海外ドラマファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】では、海外ドラマに登場するフードやドリンクが楽しめるのはもちろん、くじ引きも引けちゃうんですよ!今回はくじ引きで当たる豪華グッズやこぼれ話をご紹介。

映画『トップガン マーヴェリック』トム・クルーズ 映画好きが選んだ2022洋画ベスト

正式部員の皆さんに2022年の洋画ベストを選んでいただきました。候補作品は2022年に劇場公開or配信された洋画(ドキュメンタリー以外の実写)の中から編集部が独断で選抜しました。前回の「2022邦画ベスト」に続き、洋画ではどの作品が上位にランクインしたのでしょうか?

【ARUARU海ドラDiner】プレオープン 海外ドラマファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】3月10日OPEN!多数の企業コラボにより店内には100枚以上のポスターがギッシリ

いよいよ3/10にオープンを迎える【ARUARU海ドラDiner】。本日3/9がプレオープンとなり、トーキョー女子映画部スタッフ、マイソンとシャミが一足お先に完成した【ARUARU海ドラDiner】に行ってきました。今回は本ダイナーの様子を写真と共にお届けします!

「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合 さまざまな分野の専門家が語る「〇〇から見る海外ドラマあるあるTALK」は必見!【ARUARU海ドラDiner】3/10から4/9開催

「こんな場所があったらいいな」という思いのもと、多くの方、多くの企業のご協力により実現しオープンを迎える【ARUARU海ドラDiner】…

「ARUARU海ドラDiner」202303イメージビジュアル 海外ドラマファンが集う場所【ARUARU海ドラDiner】で、海外ドラマの楽しさを提供する多数の企業がコラボ!

多くの企業様にご参加いただいて、さまざまな海外ドラマのポスターや予告編で彩りたい。【ARUARU海ドラDiner】のそんな思いを叶えてくださった企業を今回ご紹介します。

ARUARU海ドラDiner:ロゴ&パースMIX “あるある”がテーマ。語り合いたい「海ドラ好き」に贈る 日本初!海外ドラマPopupコンセプトカフェ、東京・池袋の「Mixalive TOKYO」にて開催

日本初の海外ドラマコンセプトカフェを、「トーキョー女子映画部」のプロデュースにより、2023年3月10日(金)~4月9日(日)の期間限定で開催します。

映画『キングダム2 遥かなる大地へ』山﨑賢人 映画好きが選んだ2022邦画ベスト

昨年に続き正式部員の皆さんに2022年の邦画ベストを選んでいただきました。候補作品は2022年に劇…

映画『恋とニュースのつくり方』レイチェル・マクアダムス 新年にやる気がわくサクセスストーリー特集

今回は、新年にやる気がわくサクセスストーリーのオススメ作品を正式部員の皆さんから募りました。素敵なサクセスストーリーを観て、やる気をアップしましょう!

REVIEW

  1. 映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー
    ザ・ホエール

  2. 映画『マッシブ・タレント』ニコラス・ケイジ
  3. 映画『ロストケア』松山ケンイチ/長澤まさみ
    ロストケア

  4. 海外ドラマ『THE LAST OF US』ペドロ・パスカル/ベラ・ラムジー
    THE LAST OF US

  5. 映画『シャザム!~神々の怒り~』ザッカリー・リーヴァイ
  6. 映画『コンペティション』ペネロペ・クルス/アントニオ・バンデラス/オスカル・マルティネス
  7. 映画『零落』斎藤工
    零落

  8. 映画『わたしの幸せな結婚』目黒蓮(Snow Man)/今田美桜
  9. 映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』クリス・パイン/ミシェル・ロドリゲス/ジャスティス・スミス/ソフィア・リリス
  10. 映画『The Son/息子』ヒュー・ジャックマン/ローラ・ダーン/ゼン・マクグラス
    The Son/息子

PRESENT

  1. 中国ドラマ『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』ヤン・ヤン/チャオ・ルースー
  2. 映画『銀河鉄道の父』役所広司/菅田将暉/森七菜/豊田裕大/坂井真紀/田中泯
  3. Huluプレミア『ジンクスの恋人』ソヒョン(少女時代)/ナ・イヌ
PAGE TOP