取材&インタビュー

子どもを置き去りにする母親に対して世間の目は厳しい『パパは奮闘中!』主演ロマン・デュリス、ギヨーム・セネズ監督来日

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映画『パパは奮闘中!』来日トークイベント:ロマン・デュリス、ギヨーム・セネズ監督

映画『パパは奮闘中!』来日トークイベント:ロマン・デュリス、ギヨーム・セネズ監督
※MC:安藤哲也氏(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表)

『パパは奮闘中!』のPRのためにロマン・デュリス、ギヨーム・セネズ監督が来日。監督の実体験もエッセンスになっていたり、変わった手法で俳優の演技を引き出していたり、本作の撮影の裏側などをじっくりと語りました。今回は、トークの内容をそのまま会話形式でお届けします。

MC:
本作は昨年のカンヌ国際映画祭の批評家週間に出品され、ベルギーやフランスでも公開されたそうですが、ベルギーやフランスでの反応はいかがでしたか?

ギヨーム・セネズ監督:
上手くいったと思います。批評家の方からも観客の方からも非常に高い評価を受けました。この映画に数年かけていますから、やっぱりそういう評価を得られるというのは、監督としてはとても心地良いものです。しかもカンヌ映画祭で上映されたということで、世界に向けての輪を広めるという点では非常に貴重な機会でした。しかも日本も含めていろいろな国々で売れていますので、そういう意味ではこのストーリーっていうのはとてもユニバーサルなものがあるんだなと感じました。

ロマン・デュリス:
そうそう、フランスの批評家の方達は結構厳しい批評をしますから、それでもこの作品に関しては、すごく激賞する批評家が多かったんです。これまでもいろいろな作品に出演してきましたが、今回の作品は、皆さんがこの映画が好きだってことをすごく表立って言ってくださるような、そういう作品でした。

映画『パパは奮闘中!』来日トークイベント:ロマン・デュリス

MC:
監督にお伺いしたいのですが、この作品を作ろうと思ったきっかけは何ですか?

ギヨーム・セネズ監督:
大体作品を作る時は、自分が普段考えていること、自分に自問自答すること、自分にとって関心のあること、そういうテーマから発展させていくことがとても多いんです。今回の場合もちょうど最初の作品“Keeper”(2015)を撮る直前くらいに、私の今の子ども達の母親と別れることになったんです。その時は幸いなことに、離婚したとしても交代交代で父親が預かる期間、母親が預かる期間という形で関係性を共有していったわけですが、もしそういう方法を取らなかったらどうなるんだろうっていう、自分の中で不安があってというか、問いかけをすごくしました。ただ、シナリオを書くにつれて、自分の実体験だけでないちょっと離れた部分もありますけど、根っこのところで自分のお腹から出てきたというか、そういう生理的なものがこの作品には含まれています。

MC:
では、デュリスさんにお伺いしたいのですが、監督からこのお話をもらった時はどう思われましたか?そして1人で子育てをする父親役を演じるにあたって、何か工夫されたことや思いなどありますか?

ロマン・デュリス:
実は彼の“Keeper”という作品を僕自身観ていて、すごく気に入っていたんです。その演出に対しても、俳優達の演技にしても、すごく自由な感じがあって、その作品を作ったギヨーム・セネズ監督といつか仕事をしたいと思っていたんです。そう思っていた時にちょうど監督からお話があって、「1人で子どもを育てる父親を書いているんだよ。『クレイマー、クレイマー』なんだよ」という風に言われたんです。その話を聞いた時は、まだシナリオも書かれておらず、話を聞いただけだったんですが、すぐにやりたいと思ったんです。その後でまた監督と一度会って、その時はシナリオはあるんだけど、セリフは書かれていない、トリートメントというものを見て、その時に非常に素晴らしく構成されていて、普通だったらここはもうちょっとこうして欲しいとか直して欲しいとか言うのですが、すごくクリアでとても美しく描かれていたので、これはやるしかないと思いました。

MC:
僕も観ていて子ども達の演技がすごく自然で素晴らしかったんですけど、監督は今回台本なしで撮影されるという独特な演出方法を使われたのですが、どうしてこのような演出法を取られたのでしょうか?

映画『パパは奮闘中!』来日トークイベント:ギヨーム・セネズ監督

ギヨーム・セネズ監督:
実は2つの理由があるんです。その理由を申し上げる前に1つ言っておきたいことが、実はセリフは俳優達に渡してなかったんですけど、僕自身はきちんとセリフの書かれたシナリオを持っていたんです。ただそのセリフの部分は俳優には渡さないという。僕自身が俳優達に寄り添うことによって、一緒に見つけていこう、それが僕自身の演出方法だったわけです。そこで何が得られるのかというと、とても自由さがあって、アドリブですから自発的なものがあるんです。自発的なものがどういったものかというと、例えばアドリブでそれぞれの俳優がちょっと言葉を探したりだとか、どもったりとか、あるいは2人の人物が重なって言ってしまったりとか、そういうものってあまり観ていて美しくないと思って、映画では消してしまいがちなんですよね。でも僕はその自発性というものをすごく大切にしていて、そういうリアルなやり取りがあるからこそ観客は、そのやり取りに信憑性を見出して信じてくれる。信じてくれるということは共感してくれる、共感してくれれば感動が生まれる、そういう意味合いで自発的な演出というものをすごく重要視したわけです。そしてもう1つは、やっぱりチームでやるっていうことですね。僕自身はセリフを書いていますし、どういう方向にいって欲しいかわかっているわけですが、それがどういう方向にいくか、どうやってゴールにたどり着くのか、それが非常に興味深いんですよ。一人ひとりが自分の中の良いものを取り出して、そして皆で同じ方向にたどり着く。僕が考えていたのは、僕が1人で頭の中で考えたものよりも、絶対に1人、2人、3人、4人と合わさった頭で考えたもののほうが絶対に良いに決まっているので、2つ目の理由というのは、僕が書いたシナリオよりもさらに良いものを皆でやることによって目指す、そういう理由だったんです。

MC:
そういうことがあったんですね。でも台本なしの演出って役者さんにとってはすごく大変だったと思うのですが、デュリスさんは実際に演じられていかがでしたか?

ロマン・デュリス:
難しかったのは最初だけですね。一旦スイッチが入ってしまえば、後はそんなに難しくないんです。ただこういうやり方でやると、そりゃあ俳優達がリスクがあるんですよね。最初は心配もあります。「監督との間に上手く信頼関係が生まれなかったらどうなるんだろう。全然セリフが出てこないんじゃないだろうか」とか、そういう不安はやっぱり初日にはありました。今回のやり方だと俳優に求められるものというのが、本当に全身全霊で臨むこと、そしてどんな時でもスタンバイできていること、そしていろいろなものをクリエイトする、アイデアを出すなど、そういう姿勢で俳優は臨まないといけないんです。だから初日がどうなるかということは、やはりちょっとデリケートな部分もあるんですが、それを見事に成功させたのは、監督の性格の良さだと思います。すごく好意的に受け取ってくれるんです。だから皆が提案をしたらそれを寄り添う形で、とてもポジティブな意見を述べてくれる、そんな監督だったんです。すべての監督がそういうわけではないんですよ。やっぱりセネズ監督というのは、何か言われたことに対してジャッジをしないし、それは子どもも大人も同じなんです。常に好意的な形で話を聞いてくれて、そうすることで映画自体、撮影自体がとても豊かになって、クリエーションとしてもう1つレベルの高いものに到達するんですよね。

映画『パパは奮闘中!』来日トークイベント:ロマン・デュリス

MC:
内容についてもお伺いしたいのですが、妻が家出をしてパパが子どもに何の服を着せて良いのかわからないとか、何でもシリアルを出しておけば良いとか、そういうシーンがあったんですけど、それは監督ご自身の実体験などがあるのでしょうか?

ギヨーム・セネズ監督:
僕はパスタを作っていました(笑)。先ほども言ったようにもちろん自分の体験からこの映画を作りたいという風に思ったのですが、やっぱりこれは1つのフィクションであり、ドラマですから、それは自分でカーソルを動かしてここはもうちょっとこうと誇張したりという形でやっていったわけです。今回の脚本というのは、僕1人で書いたわけではなく、ラファエル・デプレシャンという女性脚本家も参加しているんです。だからここはもう少し強調したほうが良いとか、そういう形で作ってきました。まあでも、皆さんご心配なく。僕は子ども達にちゃんと野菜もあげていましたし、お米も食べさせていましたよ(笑)。シリアルだけじゃなかったです。

MC:
実は僕もまだ保育園に行っている子どもが2人いまして、仕事に明け暮れて、今で言う“ワンオペ育児”のように妻がなってしまって、妻に家出をされているんですよ(笑)。その時に「なんて母親の仕事って大変なんだろう」って気が付いたし、育児に比べたら仕事なんて楽勝だよなって。そう思って僕は、父親を支援する“ファーザーリンク・ジャパン”という企業を作ったという経緯があります。デュリスさんも実際にお子さんのいるパパだと伺っていますが、今回のオリヴィエという主人公をどのように思われたのか、あるいは父親としてどんなところに共感されましたか?

ロマン・デュリス:
どちらかというと、監督の方法と逆かなと思います。僕自身はこのオリヴィエを演じるためにできるだけロマン・デュリスから離れようという、そういった作業だったんです。ようやく役を演じきった後で、どこが自分とオリヴィエが近いかなと考えるという形でした。じゃあどういうところに共感したかというと、やっぱり子どもと接している時の自分の感情ですね。オリヴィエの場合は妻が失踪したことによって、悲しみというのも感じていますし、それからパニックも感じていますよね。ただ僕自身が言えることは、僕は子どものいる父親ですが、俳優としては何も子どもを持つ必要っていうのはないと思うんですね。少なからず才能があるんだったら、子どもがいなくても立派に想像力を使って演じることもできると思います。

MC:
社会的な話なんですけど、私はずっとシングルファザーの支援をやってきているんです。映画の中でも男性って抱え込んでしまうと、思い詰めてしまうシングルファザーが僕の周りにもいまして、それで孤立化しないように仲間達で支えて、悩みをシェアして励ますようなミーティングをよくするんです。映画の中でもパパと子どもがカウンセラーのところへ行かれるシーンがあったのですが、フランスやベルギーなどでは社会的な一人親、父親に対するサポートっていうのは仕組みとしてあるのでしょうか?

ギヨーム・セネズ監督:
確かにフランスではそういった支援をする協会、団体、あるいはこの作品にも出てきますが、心理学者のカウンセリングみたいなものがあるわけですが、実はこの作品の脚本を書いている時に子育てを1人でしなければならない父親の大変さってこと以上に、子どもを置き去りにする女性に対しての世間の目っていうものもすごく厳しいものがあるな、これは結構タブーなことなんだと気が付いたんです。日本はどうかわかりませんが、ヨーロッパではまだまだそういう子どもを置き去りにする母親に対しての世間の目というのは厳しいものがあるんです。ですから僕自身は1人のアーティストとして、タブーがあるところというのは、社会学的には非常に興味深い、そこは掘り下げるべきだと思ったので、今回の作品というのは女性という自由というものに対しても描いているんですね。そういうわけで自分自身は作者として置き去りにした母親のことをジャッジすることとか、その人を何か罰するとか、そういうような描き方はしませんでした。そういう意味では、この作品というのは非常にフェミニズムな作品になっているんじゃないかなと思うんです。もちろんこの作品の中でオリヴィエは1人で子育てするのに奮闘するわけですけど、お父さんが全然手伝ってくれない母親は、日々苦労しているわけですよね。フランスで男女平等というのは、理論的には「男女平等であるべきだ」と言うわけですが、それが実践されているのかというとまだまだなんです。

映画『パパは奮闘中!』来日トークイベント:ロマン・デュリス、ギヨーム・セネズ監督

MC:
なるほど。日本からするとフランスは随分先を行っている感じがしたんですけど、お話を聞くとそういう根深いものがあるんだなというのを感じました。日本はまだまだ父親の長時間労働とか働き方の問題もあって、どうしても母親の育児の負担やストレスがかなりあるという社会なんです。僕はこの映画をもっと多くの男性、父親に観て欲しいなと思っていて、監督がおっしゃったように母親に対する世間からのプレッシャーであるとか、あるいは本当の大変さですね。僕も妻に家出をされて気付いたんですけど、こんなに1人でやるのは難しいなって感じたりしました。そういうことをこの映画を通して、日本の多くの父親だったり、これからパパになる世代の人達に観て欲しいなと思いました。最後に今日来てくださっている皆さんも含め、日本のパパ、あるいはママへのメッセージがありましたらお聞かせください。

ロマン・デュリス:
子ども達がせっかくいるんですから、楽しんでくださいね。

ギヨーム・セネズ監督:
映画っていうのは一旦出来上がってしまったら、それはもう監督のものではないんです。観客の想像力に委ねられているというところがあるんですよね。日本もそうですし、いろいろな捉え方を違う文化の人達が捉えるんだと思います。やっぱりそれぞれの国、それぞれの人によって感性も価値観も違いますし、信じているものも違いますよね。この映画も含め僕の映画は、観客に想像の余地というものをすごく残している映画だと思います。

映画『パパは奮闘中!』来日トークイベント:
2019年3月19日取材 PHOTO&TEXT by Myson

映画『パパは奮闘中!』ロマン・デュリス

『パパは奮闘中!』
2019年4月27日より全国順次公開
セテラ・インターナショナル
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定

©2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma

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