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勇気を持ってほしいと伝えたい『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

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映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

映画『ザ・ホエール』来日記者会見:ブレンダン・フレイザー

本作が日本で劇場公開される前日、主演のブレンダン・フレイザーが来日しました。『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(2008)から15年ぶりの来日とのことです。ブレンダンは、「15年ぶりに日本に来られて、本当に嬉しく思っています。昨日少し時間があったので、既に街を見たりしていたんですが、しゃぶしゃぶをいただきました。今日は『ザ・ホエール』についてお話できることを楽しみにしています。これから作品が公開されるということで皆さんがこの『ザ・ホエール』の新しい観客になってくださることにワクワクしています。この作品は、共感、思いやり、愛、そして手に入れるのは大変かもしれないけれど何とか掴む希望の物語でもあります。主人公の男性はとてもダークな場所にいるんですけれども、光に向かって歩くことができるんです」とコメントしました。

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

そしてさっそく質疑応答が行われ、たくさんの質問に答えてくれました。

Q:アカデミー賞主演男優賞を受賞した喜びを改めて聞かせてください。そして、本作のようなインディーズ作品がアメリカ最大の映画の祭典で主演男優賞という大きな賞を獲る意義をご自身がどう受けとめているかをお聞かせください。

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

ブレンダン・フレイザー:
未だに自分が受賞したことに驚いています。もちろんワクワクしましたけれど、ああいう形で非常に大きなことを達成したグループの中に自分が招待されるとも全く思っていなかったので、大変光栄でした。また、自分と同じく主演男優賞にノミネートされた方々が全員才能溢れる素晴らしい演技をされた方々ばかりなので、僕が受賞したけれども、ある意味オスカー像を皆で分かち合ったつもりでいます。

Q:15年前に一緒に来日されたミシェル・ヨーさんも今回オスカーを受賞されました。受賞されたお2人でどのような話をされたかお聞かせください。

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

ブレンダン・フレイザー:
ミシェルは本当に仲の良い友達でもあるんですが、ずっとお会いしていなかったので実は『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』の撮影時ぶりでした。こういう形で再びお会いできて本当に嬉しかったです。彼女は才能に溢れる素敵な、そしてものすごい勇気の持ち主なんですね。皆さんご存じの通り、女性をカテゴリーにはめて、こういう役しかできないという業界に対して立ち上がり、立ち向かい、女性はその状況に甘んじるべきではないと宣言できる、それがミシェルです。自分自身を信じて、女性もこの業界の一部なんだからそれは当然のことだと声を大にして表現されてきた方です。頑張り続ける気持ちと、ものすごい才能を持っていると、いかにすごいことを達成できるかを示してきた、本当に生きる証ですよね。ミシェルと僕自身、今回本当に意味深い形で再会することができました。ちなみに僕は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』も大好きで、非常に発想力があってクリエイティブな作品だと思います。30年ぶりに友達であるキー・ホイ・クァンにも再会できて、思わず「僕等、まだここにいるね」と言っていました。ミシェルの話に戻りますが、彼女は道を切り拓いていく方で、僕は大いに彼女に対する敬意を抱いています。

Q:『ザ・ホエール』は、25年前のあなたの隠れた名作『ゴッド・アンド・モンスター』(1998)と重なるところがあると強く感じました。あなた自身はその辺を感じられましたか?また、同作でジェームズ・ホエール役を演じたイアン・マッケランから、今回のチャーリー役は影響を受けたんじゃないかと思いましたが、その辺りについてご意見を聞かせてください。

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

ブレンダン・フレイザー:
本当にその通りだと思います。イアン・マッケランとご一緒したのは20年以上前になるのですが、当時からこういう言葉を私にくれました。「役者の仕事というのは演技をする時、それがまるで初めて演技をするかのように、そして最後の演技であるかのように臨まなければいけない」と。特に『ゴッド・アンド・モンスター』や『ザ・ホエール』のような非常に思慮深い作品を作っている時はまさにそうだと思うんですね。『ザ・ホエール』は室内劇、室内楽のようなものでもあり、小さなアパートの中で話が展開していく、そのなかで強烈な感情が渦巻いている物語です。さらに再び愛を見つけていく主人公の物語でもあるわけです。特に今日の映画作り、この状況のなかでこういう映画は非常に重要で、作られるべき作品だと思っています。スクリーンでかける可能性があるならば、こういう作品を描いていかなければいけない。人間のやり取り、人間関係、こういったものにしっかり目を据えて、なるべくリアルに正直に誠実に描いていくことが大事なんじゃないかなと思います。そして、1つだけエピソードを披露しますと、実はアカデミー賞授賞式の3週間前にロンドンでイアン・マッケランさんとお会いしました。ちょうどこういう感じのイベントのモデレーターを務めてくださっていて、本当に久しぶりにお会いしました。彼はとても仲の良い友人でもあり、いろいろな話をしたんですが、なぜか『ザ・ホエール』の話だけはしませんでした。でも、お別れをする時にイアンが僕に耳元で「もう君はオスカーを獲っている」と囁きました。だから、もし金色の小さな像が自分の元にこなかったとしても自分にはオスカーが来たんだという風に思えていたと思います。

Q:チャーリー役をどのように解釈して演じられましたか?ダーレン・アロノフスキー監督の撮影現場での演出を、俳優としてどうご覧になりましたか?

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

ブレンダン・フレイザー:
まずダーレン・アロノフスキー監督とお仕事ができて大変光栄でした。彼は全く動じることがない方ですし、観客にとってもスクリーンに映し出されるものから絶対に目を背けないよう要求する監督だと思います。どの役者も彼ほどの才能を持つ監督と仕事をしたがっていると思います。最初に会った時は、クリエイティブな意味で少し距離を感じました。非常にジェントルマンな方なんですが、どのキャストにも要求するスタンダードが非常に高いんです。そのことがわかっていたからこそ、人間として役者として、自分が知る限りのすべてのものをこのキャラクターにつぎ込みましたし、そのリスクも負って、できるだけ自分の脆さというのも表現しました。ここまで自分の脆さを表現してくれというのはあまり役者として言われたことはなかったんですね。そういう形で監督と1つの道のりを旅することができて、人生が本当に変わったといえます。

チャーリーという役に関しては、大変たくさんのリサーチをしました。彼は父であり教育者でもあり、タイミングがあまり良くない時に深い愛を見つけてしまった。そのために自分の前の家族からはリスペクトを失ってしまう、そういうリスクを払っている。彼は再びリスペクトを得るのは無理なのではないかと思っていますが、最後の唯一の贖罪は、自分の娘と再び関係を構築することだと考えるわけです。ちなみに娘を演じたセイディー・シンクは本当に素晴らしい役者さんだと思います。そしてリサーチの一部として、今回OACという団体とお仕事をしています。OACとは、the Obesity Action Coalition という団体で、肥満症の方やそのご家族を支援する団体です。彼等のミッションは、私達の文化に残念ながら未だに残る肥満症の方に対するバイアスを終わらせるということです。こういう作品を作ること自体が大胆で、リスクがあるということを私達は重々承知していました。でもそれこそがアートだし映画だと思うんです。僕は実際の人生の中ではあまりリスキーなことはしないんですけれど、こういう映画、アートを作る時はクリエイティブな形でリスクをとるべきだと考えています。そのために少し居心地が悪くもなるんですよね。だけど、そういう不安があるからこそ、一番大きな成長が望めるのだと思うし、今回もそうでした。

Q:チャーリーは死を目前にした極限状態にいて、そういう時にこそ人間の本質が出るのかなと思います。本作に向き合ったことで出てきたご自身の本質、露見されたものはどういうものだったのか教えてください。

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

ブレンダン・フレイザー:
自分自身、父の愛は常に勝つんだなと改めて感じました。私も3人の息子の父親なので元々そういう気持ちはありましたが、改めて今回感じたことでもあります。だからこそ、チャーリーが自分の子どもとの関係を妥協してしまっているところで、どれだけ辛い思いをしているか、本当にそれは計り知れないと思いました。役を演じる上では、今回サミュエル・D・ハンターさんの脚本に書いてあること以上に深掘りはあまりしなかったんです。これは本作の脚本家であり戯曲を書いたハンターさんご自身の人生経験を基にした物語なので、既にそこに彼の真実があったわけです。そして、そこには家族が一つでいることの大切さも描かれています。彼自身が脚色をしてくださったんですけれども、撮影もとても親密な環境で行われました。コロナ禍がかなり酷い時点での撮影だったので、とてもユニークな形でこの作品を作りました。我々全員そうですけれど、実存主義的な脅威にさらされながら制作したという感じでした。ですから改めて、皆さんとこういう身近な形でお会いできて本当に嬉しく思っています。世界がそういう状況に戻ってきていて本当に嬉しいです。『ザ・ホエール』は小さな作品ではあったけれど、もちろん安全第一で、コロナ禍対策のために感情の上でも皆ちょっと距離感があるなかで制作されました。そう思うと2019年から2020年に作られた映画は全部特別で、私達世界中皆が感じている毒に対する薬みたいな、何か良いものを作ろうという努力がなされた映画達なのではないかと思います。『ザ・ホエール』も皆さんを癒すことができる可能性を持った、素晴らしいとても良質な作品になっていると思うし、この作品に関われたことをとても特別に思っています。

Q:コロナ禍で映画制作も難しかったり、社会の構造も変わってきたなかで日本の人々の心も落ち込んだりしている部分がたくさんあると思います。この映画とあなたの人生で、復活したい人々にどういうものを与えられるかを語ってください。

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

ブレンダン・フレイザー:
僕からは勇気を持ってほしいと伝えたいです。勇気を持つということは壁がそこにそびえ立っていることを認識することでもあると思うんですね。ヒーローは必ずしも剣や盾やヘルメットを被っているものではないと思います。私達人間がなるべきヒーローはそういう形のヒーローではなく、自分達の前に乗り越えなければいけない壁があるんだと認識することから始めるようなヒーローではないかと思います。そして、自分自身がこれは自分の道のりなんだとしっかりと認識する、勇気を持って必要なことをする。そうすると自分が辿り着きたい場所に少しずつ少しずつ近づいていけるのだと考えています。日本の観客の方には『ザ・ホエール』を観ていただいた時に、チャーリーをとても勇気のある一人の人間だと感じていただきたいです。全く想像していなかったかもしれないけれど、彼はヒーローなんです。人生においてのヒーローというのは、まさかそこにヒーローがくるとは思わなかったというところから生まれてくるものだと思います。チャーリーもその一人ではないでしょうか。

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー来日記者会見

本作は、自分の最期を知り、自分の人生、そして愛する人達に改めて向き合う主人公の最期の濃厚な5日間を描いた物語です。噛みしめたくなるセリフ、シーンが詰まっています。ぜひ映画館で、本作の世界観に没入してご覧ください。

映画『ザ・ホエール』来日記者会見:
2023年4月6日取材 PHOTO&TEXT by Myson

映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー

『ザ・ホエール』
2023年4月7日より全国公開
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

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