REVIEW

星の子【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『星の子』芦田愛菜

努力してもどうにもならない、人間の力ではどうにもならないと絶望している時に、何でも良いからすがりたくなる気持ちは誰にでも起きます。そして何かの力が実際に働いたのかわからずとも、状況が好転すると、ついその時にすがったものを信じたくなるのは当然です。本作の主人公ちひろ(芦田愛菜)の両親はまさにそんな状況で、周囲から見ると怪しいとしか思えない宗教に入信してしまいます。無宗教の人が多い日本というお国柄もあるのかもしれませんが、身近な人間が熱心な信者になると不安になるというのはよくあることです。本作の中でも家族をその宗教から引き離そうとする人達も出てくるし、内心では心配しながらも本人の意志を尊重する人もいれば、あからさまに拒絶反応を示す人もいます。ただ、宗教がもたらすものを完全否定するわけでも肯定するわけでもなく、さまざまな角度から見た宗教と人を描いている点で、フラットに観ることができるストーリーになっています。
結局、人知を超えたことがこの世で全く起きていないとも証明できなければ、奇跡が神の仕業とも証明できないので、信じるか信じないかは本人次第です。ちひろの両親が行う儀式や日々の生活ぶりを観ていると、サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」に重なる部分を感じましたが、見えない存在だからこそ信じ続けられるのではないでしょうか。それなのにそれを具現化し、具体的な象徴や対象としてしまうことで、あまりに人間的なものに見えてきて、ジャッジをしたくなる人が出てくるのかもしれません。本作の結末は一見とてもニュートラルで「??」となるかもしれませんが、この描写にこそ、結局人間は折り合いを付けて生きているという人間の本音が隠されているように思います。いろいろな解釈を楽しんでください。

デート向き映画判定
映画『星の子』芦田愛菜/岡田将生

私の身近でも、宗教が原因で別れたというカップルは何組かいます。信教の自由があるとはいえ、人知を超えた存在を扱っている事柄だからこそ、おろそかにできないし、端からはわからないことも多く、だからといって知ろうとするのも怖いと感じるでしょう。熱心な信者となると生活にも大きく関わってくるし、結婚を考えた場合に自分だけでなく、子ども達の影響も気になります。目を背けたくなる話題にされがちですが、気になる人は敢えて一緒に本作を観て話し合うきっかけにすると良いかもしれません。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『星の子』芦田愛菜/永瀬正敏/原田知世

芦田愛菜が演じる主人公は中学3年生で、今までは親のいうことにあまり疑いを持たず素直に受け容れてきましたが、だんだん自我が芽生えてきて、それまで普通のことだと思ってきたことに迷いが出てきます。本作は宗教をテーマにしていますが、宗教でなくても、親の価値観や社会のスタンダードなどに置きかえて考えて観ることができます。家族や身近な人を大切にしつつ、自分はどうしたいかを考えることは大切です。本作を観て、シミュレーションしてみるのはいかがでしょうか。

映画『星の子』芦田愛菜

『星の子』
2020年10月9日より全国公開
東京テアトル、ヨアケ
公式サイト

© 2020「星の子」製作委員会

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』水上恒司/木戸大聖/八木莉可子/綱啓永/JUNON(BE:FIRST)/中沢元紀/曽田陵介/萩原護/髙橋里恩/山下幸輝/濱尾ノリタカ/上杉柊平 WIND BREAKER/ウィンドブレイカー【レビュー】

にいさとる作の同名漫画を原作とする本作は、不良グループが街を守るというユニークな設定…

映画『ナイトフラワー』北川景子 北川景子【ギャラリー/出演作一覧】

1986年8月22日生まれ。兵庫県出身。

映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2025年11月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2025年11月】のアクセスランキングを発表!

映画『佐藤さんと佐藤さん』岸井ゆきの/宮沢氷魚 映画に隠された恋愛哲学とヒント集80:おしどり夫婦こそ油断禁物!夫婦関係の壊れ方

どんなに仲が良く、相性の良さそうな2人でも、夫婦関係が壊れていく理由がわかる3作品を取り上げます。

映画『マルドロール/腐敗』アントニー・バジョン マルドロール/腐敗【レビュー】

国民を守るためにあるはずの組織が腐敗し機能不全となった様を描いた本作は、ベルギーで起き、1996年に発覚したマルク・デュトルー事件を基に…

映画『消滅世界』蒔田彩珠 消滅世界【レビュー】

ジェンダー、セックスのどちらにおいてもこれまでの常識を覆す価値観が浸透した世界を描いた本作は、村田沙耶香著の同名小説を原作として…

映画『ナイトフラワー』森田望智 森田望智【ギャラリー/出演作一覧】

1996年9月13日生まれ。神奈川県出身。

映画『佐藤さんと佐藤さん』岸井ゆきの/宮沢氷魚 佐藤さんと佐藤さん【レビュー】

同じ佐藤という苗字のサチ(岸井ゆきの)とタモツ(宮沢氷魚)は、セリフにも出てくるように「結婚しても離婚しても佐藤」です…

映画『楓』福士蒼汰/福原遥 『楓』カバーアーティスト、十明による“楓”生歌唱付き&サプライズゲスト登壇!特別試写会 9組18名様プレゼント

映画『楓』カバーアーティスト、十明による“楓”生歌唱付き&サプライズゲスト登壇!特別試写会 9組18名様プレゼント

映画『兄を持ち運べるサイズに』柴咲コウ/オダギリジョー/満島ひかり/青山姫乃/味元耀大 兄を持ち運べるサイズに【レビュー】

原作は、村井理子が書いたノンフィクションエッセイ「兄の終い」…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  2. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  3. 映画学ゼミ2025年11月募集用

REVIEW

  1. 映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』水上恒司/木戸大聖/八木莉可子/綱啓永/JUNON(BE:FIRST)/中沢元紀/曽田陵介/萩原護/髙橋里恩/山下幸輝/濱尾ノリタカ/上杉柊平
  2. 映画『君の顔では泣けない』芳根京子/髙橋海人
  3. 映画『マルドロール/腐敗』アントニー・バジョン
  4. 映画『消滅世界』蒔田彩珠
  5. 映画『佐藤さんと佐藤さん』岸井ゆきの/宮沢氷魚

PRESENT

  1. 映画『楓』福士蒼汰/福原遥
  2. 映画『楓』旅からはじまるトラベルポーチ
  3. 映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン
PAGE TOP