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映画と人の研究3:人気の邦画に共通する要素と映画ファンの好みの関係

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映画『キネマの神様』菅田将暉

今回は「映画好きが選んだ2021邦画ベスト」のデータをもとに分析を行いました。2021年の人気作品にはどんな要素があり、映画ファンの反応に何かしら影響はあったのかを検討しました。

データ:映画好きが選ぶ2021邦画ベスト
回答期間:2022/02/14 14:00〜2022/03/06 23:59
回答数:10代を含む193名の女性

<手順>
2021年に劇場公開された作品から、編集部で30作品を選び、正式部員の皆さんに投票いただきました。選択肢は、下記の3つ。
好き:2点/ふつう:1点/特別好きではないor観てない・知らない:0点 と設定。

本データで因子分析を行いました。初期解における固有値の変化は、11.357、2.283、1.328、1.272…となり、2因子構造が妥当だと考え、最尤法、プロマックス回転、因子負荷量.35基準で分析を行いました(削除した項目はなし)。プロマックス回転後の最終的な因子パターンは以下の通りです。
※第1因子と第2因子の相関は、0.673
※本来は最初から因子分析を目的とした設問と選択肢に設定する必要がありますが、今回は既存のデータを利用しています。

下記のグラフは第1因子が強く示された作品は青、第2因子が強く示された作品は緑で塗りつぶしてあります。

映画と人の研究3:人気邦画作品に共通する要素と映画ファンの好みの関係:因子負荷量順

各因子が何を示すのかは、研究者(ここでは私マイソン)が考えて命名します。今回は下記と命名しました。

  • 第1因子(左の列):「現実を直視」因子
  • 第2因子(右の列):「視点の転換」因子

下記で解説していきます。

まず前提として、上記の2因子だけが作品の要素となっているわけではなく、他の要素も含まれます。上記2因子はその中でも強く影響を及ぼしている因子です。
投票の点数に影響している要素として、作品の知名度、出演者、監督の知名度もあります。30作品の中には大作系続編も含まれており、前作の人気もあって鑑賞者が多いことが考えられます。投票1位の『花束みたいな恋をした』は話題性もあり、主演の2人も人気です。女性の投票というところでも、女性に人気のジャンルという点で上位になったと考えられます。また全体的に上位にある作品は、作品の規模が大きい、有名俳優が複数出演している、もしくは映画賞受賞などで話題性があるなど、基本的に知名度が高い作品です。

一方で小規模の作品は鑑賞者そのものが少ないため、「特別好きではないor観てない・知らない:0点」を選択している可能性が高いということも、投票における点数評価に影響を与えています。よって作品の評価に参加していないとも捉えられますが、一方で観なかった背景として「作品を知っていたけれど選ばなかった」という背景も考えられます。このような影響を受けたデータということを前提にしつつ、一旦2つの因子の話題に絞って、考察を以下に述べます。

因子名の候補は他にも、「第1因子:メランコリック/第2因子:ロマンチック(広義での)」や、「第1因子:原作なし/第2因子:原作あり」なども考えました。まず、後者の原作の有無は事実と擦り合わせた上で該当しませんでした。前者も明確に分けて考えにくいものがあるので違和感が残ります。最終的につけた「第1因子:現実を直視/第2因子:視点の転換」についても、人によっては異論を感じるかもしれませんが、下記が私の根拠です。

青で塗りつぶした「第1因子」が強く示された作品は、社会問題や、家族の問題、夫婦の問題、他人同士で起きた問題などを描いたものです。何らかの解決は描かれていたとしても、私達の身近にある厳しい現実、苦い現実と直面させられるようなストーリーが多く含まれている印象です。よって、これらの作品に大きく影響を及ぼしてる潜在因子は「現実を直視」因子と名づけました。

映画『茜色に焼かれる』尾野真千子
『茜色に焼かれる』
★第1因子:「現実を直視」因子の負荷量が高い作品
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REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

『茜色に焼かれる』はまさに厳しい現実のなか、必死に生き抜こうとする親子の物語です。『偶然と想像』はオムニバス映画なのでそれぞれの短編でテンションは異なりますが、現実と対比した想像が描かれている点で逆に現実的なストーリーといえます。

一方、緑で塗りつぶした「第2因子」が強く示された作品にも苦い現実が描かれているものがあります。ただ、「第1因子」が強く示された作品群(青)に比べて、現実を突きつけるだけではなく、「第2因子」が強く示された作品群(緑)には、何かしらの赦しや安堵といった描写が印象に残ります。

映画『キネマの神様』沢田研二/菅田将暉
『キネマの神様』
★第2因子:「視点の転換」因子の負荷量が高い作品
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REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

『キネマの神様』は夢に敗れた主人公の物語ですが、結末には温かさがあり、振り返ると過去が美しく思えるストーリーとなっています。『老後の資金がありません!』はお金の話で現実を突きつけられるストーリーではありますが、視点の転換を感じさせる結末です。

映画『老後の資金がありません!』天海祐希/松重豊/新川優愛/瀬戸利樹/加藤諒/柴田理恵/草笛光子
『老後の資金がありません!』
★第2因子:「視点の転換」因子の負荷量が高い作品
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REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

『孤狼の血 LEVEL2』は壮絶なシーンが多いのでこの中では異質に思えますが、最後に大きな敵との間に決着がつくので、一時といえども「安堵」が得られます。

映画『孤狼の血 LEVEL2』松坂桃李
『孤狼の血 LEVEL2』
★第2因子:「視点の転換」因子の負荷量が高い作品
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投票結果による順位で並べ替えると、下記の表のようになります。

映画と人の研究3:人気邦画作品に共通する要素と映画ファンの好みの関係:投票順位
第1因子が強く示された作品は青、第2因子が強く示された作品は緑で塗りつぶしてあります。

前述したように、この投票には作品の話題性や知名度、俳優や監督の知名度、人気などが影響しているため、本研究において導き出した因子だけの影響で、人気の要因を述べることはできません。ただ、第2因子:「視点の転換」因子が強く示された作品のほうが上位を多く占めた背景から、以下のような新たな仮説を立てることができます。

  • 「赦しや安堵」を得られるストーリー=救いのあるストーリーを好む人が多い。
  • 「赦しや安堵」を得られるストーリーが好まれる状況は、普遍的である。
  • 第1因子:「現実を直視」因子が強く示される作品を好む人には共通の特性がある。

上記の仮説については、今後掘り下げてみたいと思います。

さて、皆さんの好みの作品はどちらの因子が強かったでしょうか?ご自身の好みの傾向を知る参考になると嬉しいです。

TEXT & ANALYSIS by Myson(武内三穂)

© 2021『花束みたいな恋をした』製作委員会
© 2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
©2021 NEOPA / fictive
© 2021「キネマの神様」製作委員会
©2021映画『老後の資金がありません!』製作委員会
©2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

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