心理学

心理学から観る映画17:性的暴力は被害者に何をもたらすのか

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

2次被害や社会的通念、周囲の人間関係などが弊害となり、被害を訴えにくい性犯罪。今回は性的暴力の被害者について考えます。

性的暴力の被害者が訴えたくても訴えられない背景とは

権力や社会的立場を悪用して、反撃しないであろう、沈黙を保つであろう弱者を相手に性的暴力を行う輩は、いつの時代も存在します。
複数の児童へ何年にも渡り性的暴力を行っていたプレナ神父の事件を映画化した『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』では、被害者達が長年苦しんだ末に、声を上げて戦う様子が描かれています。

小西聖子、伊藤晋二(2003)は、これまでの米国における研究、日本における強姦救援センターの調査結果などから、強姦の約4分の3は知人によるものであり、多くが室内で起き、身体的な傷を残さずに行われ、被害者は10歳未満から60歳以上にも及ぶとしています。

グレース・オブ・ゴッド 告発の時』で明かされていた児童の被害は、まさにこれに該当するもので、神父に人気のいないところに連れて行かれ、2人きりになり、身体を触られたり、神父の身体を触るように強要されたりというものでした。そして、恐怖に怯えながらも何年もそういう行為を強要されていた子ども達は、他の子ども達が自分と同じように連れて行かれるところを目にしていますが、神父に秘密にしろと言われたことを親や第三者に打ち明けることは、いろいろな意味で怖かっただろうし困難だったでしょう。なので、大きくなるまで抱えこんで精神疾患を患ったり、訴えても何もしてくれなかった親との関係が破綻したり、その心的ストレスは計り知れません。

性暴力を受けた人達がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こしやすいのは容易に想像できますが、小西聖子、伊藤晋二(2003)によると、「子どものときの性暴力被害については、18歳以前の強姦、性的いやがらせ体験がPTSDと関連があり、特に強姦体験をした子どもは大うつ病エピソード、広場恐怖症、強迫性障害(強迫神経症)、社会恐怖症、性的障害をきたす可能性がより高くなることが報告されている。また男性の性暴力被害も女性よりは少数ながら、いつも存在しており、男性の場合も、その心理的衝撃は大きなものであることも研究によりわかってきている」とあります。

映画『スキャンダル』マーゴット・ロビー

また、性暴力被害では、事件の最中、直後に多くの被害者が離人体験、困惑状態や、錯乱、失見当識、痛覚の変化、ボディイメージの変化、トンネル視野や、直接の解離体験(トラウマ周辺期の解離)を経験するとされており、解離とは、心身が対処できないようなできごとが起こったときに、知覚、環状、記憶、自我などの一部が切り離されたような精神の働きをさしますが[小西聖子、伊藤晋二(2003)]、被害者の精神状態はそれくらい追い詰められており、その時に逃げたい、反撃したいと思ってもできない状態なのです。そして、例えば被害者が冷静に見える場合でも、内面では解離が起こっている可能性があり、それを見て第三者は大丈夫と判断することは危険だとされています。

被害者が被害を訴えられない背景には、立ち向かう相手の大きさや社会的通念が大きく影響しているのはもちろん、2次被害に対する恐れや、被害に遭っている最中から既に精神的異常が起きていることも考えられます。だから訴えないのは諦めや赦しでは決してないというのは当然で、周囲の私達が日常でできることは、こういった現状や社会の闇から目を背けず、加害者に対して然るべき措置が下される社会になるように意識することから始めなければと痛感します。

<参考・引用文献>
小西聖子、伊藤晋二(2003)「犯罪心理学―加害者のこころ、被害者のこころ (武蔵野大学通信教育部テキストシリーズ)」(角川学芸出版)

映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』メルヴィル・プポー

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
2020年7月17日より全国公開

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

何でも祈って済むと思うなよと、プレナ神父をはじめ無責任な教会関係者に言いたくなる、腹立たしい実態が描かれています。聖職者達の言葉の独特な捉え方にも注目して観て頂くと、彼らの視点や思想がかなり歪んでいることがわかります。

©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

『スポットライト 世紀のスクープ』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
ブルーレイ&DVDレンタル・発売中

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

性的虐待を行っていた神父とそれを見過ごしていたカトリック教会の共犯ともいえる関係を、アメリカの新聞“ボストン・グローブ”がスクープ。複数の神父が性的虐待を行い、示談にしていた事実なども突き止めていきます。社会はどこまで汚れてしまっているのでしょうか…。

スポットライト 世紀のスクープ (字幕版)

『スキャンダル』
2020年8月5日ブルーレイ&DVDレンタル開始・発売

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
部活リポート

権力と女性差別が生んだ悲劇。こちらも実話で、1人の被害者が立ち上がったことで、他の被害者も戦う決意をしました。同じ女性でも、保身のために加害者を擁護する者がいたり、一筋縄ではいかない現実を目の当たりにします。

スキャンダル [Blu-ray]

© Lions Gate Entertainment Inc.

『告発の行方』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中

主人公はバーでただ楽しんでいただけなのに、いつの間にか男性に囲まれ、公然の場で複数の男性にレイプされてしまいます。彼女は勇気を出し、レイプ犯だけでなく、周囲で犯行を観ていた群衆も訴えますが、セカンドレイプも甚だしくて、観ているだけで相当辛いです。

告発の行方 (字幕版)

TEXT by Myson(認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』アダム・ディヴァイン アダム・ディヴァイン

1983年11月6日アメリカ、アイオワ州生まれ。サンフランシスコのアメリカン・コンサーバトリー・シアターで学んだ後…

映画『この世の果て、数多の終焉』ギャスパー・ウリエル この世の果て、数多の終焉

1945年3月、フランス兵のロベールは、フランス領インドシナで、それまでフランス軍と協力関係にあった日本軍によるクーデターで一斉攻撃に遭い…

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』ピーター・サースガード ピーター・サースガード

1971年3月7日アメリカ、イリノイ州生まれ。1995年『デッドマン・ウォーキング』で映画俳優デビュー。2003年『ニュースの天才』 で…

映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』アグニェシュカ・ホランド監督インタビュー 『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』アグニェシュカ・ホランド監督インタビュー

歴史に残る政治家や名だたるジャーナリスト達が隠していた真実を暴いた、若き記者ガレス・ジョーンズの実話を基にした映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』の監督、アグニェシュカ・ホランドさんにリモートインタビューをさせて頂きました。本作はとても壮絶な内容であり、現代に生きる私達にも繋がる部分が大いにあるストーリーですが、歴史、ジャーナリズムにどのように捉え、扱おうと心がけているのか、監督のこだわりや注意していることなどをお聞きしました。

映画『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』アダム・ディヴァイン ジェクシー! スマホを変えただけなのに

子どもの頃からスマホ依存症で、恋人も友達もいない主人公のフィル。ある日、新たにスマホの機種変更をすると、自らをジェクシーと名乗るライフコーチ機能が搭載されていました。そして…

映画『思い、思われ、ふり、ふられ』実写&アニメーションポスター 『思い、思われ、ふり、ふられ』原作者:咲坂伊緒さんインタビュー

人気コミック「思い、思われ、ふり、ふられ」が、実写版、アニメ版となって劇場公開!今回は本作の原作者である咲坂伊緒にインタビューをさせて頂きました。若者を主人公にした数々の人気作を生み出した咲坂さんは普段どんな視点で社会を見ていらっしゃるのかなど、いろいろと質問をぶつけてみました。

映画『メカニカル・テレパシー』吉田龍一/白河奈々未/申芳夫/伊吹葵/青山雪菜/石田清志郎/時光陸/松井綾香/長尾理世/竹中博文 『メカニカル・テレパシー』5組10名様 一般試写会ご招待

映画『メカニカル・テレパシー』5組10名様 一般試写会ご招待

映画『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』チャド・マイケル・コリンズ 山猫は眠らない8 暗殺者の終幕

人気シリーズである本作は今回で8作目。実はこのシリーズのことはもちろん知っていましたが、本編を観たのは今作で初めてでした。というわけでこれまでのいきさつは知らずに観ましたが…

映画『2分の1の魔法』オリジナルノート&ステッカー 『2分の1の魔法』3名様 オリジナルグッズ(ノート&ステッカー)プレゼント

映画『2分の1の魔法』3名様 オリジナルグッズ(ノート&ステッカー)プレゼント

映画『糸』菅田将暉/小松菜奈

13歳で出会った高橋漣と園田葵の運命が複雑に絡み合っていくのですが、2人の物語に特化しているわけではなく、それぞれにいろいろな経験を経て成長していくストーリーになっているので…

おすすめ記事

映画『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』志尊淳 新世代スター期待度ランキング2020

毎年多くの若手俳優の中から新たなスターが誕生しますが、今回はこれからさらに人気が上昇しそうな俳優について、トーキョー女子映画部が独断で選出し、皆さんに投票して頂きました。

親子イメージ写真 皆様へ感謝!10周年記念特集:みんなの映画好きルーツ

トーキョー女子映画部10周年記念特集第2弾!トーキョー女子映画部には多くの映画好き女子が集まっていますが、皆さん何をきっかけに映画を好きになったのでしょうか?今回は皆さんが映画好きになったルーツについて聞いてみました。

トーキョー女子映画部主宰:マイソン アバターイラスト10周年 皆様へ感謝!10周年記念特集:トーキョー女子映画部のまだまだ短い歴史

2020年7月で、トーキョー女子映画部は開設10周年を迎えました!ここまで続けてこられたのも皆さんのおかげです。本当に、本当にありがとうございます!他の多くの企業やWEBサイトに比べれば、10年なんてまだまだ若いですが、超マイペースでちゃらんぽらんな私からすると「10年ももった!」というのが本音です(笑)。そんなトーキョー女子映画部ですが、今回はこの機会にこの10年を振り返らせて頂きます。

映画『メン・イン・ブラック3』ウィル・スミス 楽しい妄想シリーズ:1日あの人になってみたい!〜コメディ俳優編〜

楽しい妄想シリーズ「1日あの人になってみたい!」企画第2弾!今回は“コメディ俳優編”です。皆さんがもし1日だけコメディ俳優になって映画に出られるとしたら、誰になってみたいですか?今回も楽しく妄想して頂きました!

映画『レヴェナント:蘇えりし者』レオナルド・ディカプリオ イイ男セレクションランキング2020<海外40代俳優 総合ランキング>

今回はついに総合ランキングを発表!各部門で接戦を繰り広げた海外40代俳優ですが、総合ランキングはどんな結果になったのでしょうか?

コロナ渦のみんなの映画生活調査2イメージ 自粛期間中、映画生活スタイルはどう変わった?:コロナ禍のみんなの映画生活調査2

前回に引き続き、皆さんのコロナ禍の映画生活調査の後編をお送りします。自粛期間中は映画館が休業となっていましたが、皆さんの映画生活スタイルに変化はあったのでしょうか?

コロナ渦のみんなの映画生活調査1イメージ 映画館休業中、映画好き女子は何で映画を楽しむ?:コロナ禍のみんなの映画生活調査1

新型コロナウィルスの影響による緊急事態宣言が解除されつつありますが、まだまだ気を緩められませんね。そんな状況のなか、皆さんは映画をどう楽しんでいるのでしょうか?今回はコロナ禍の映画生活について、調査しました。

銃イメージ画像 あの名作をリメイクするとしたら、誰をキャスティングする?『レオン』

「勝手にキャスティング企画!」第3回は『レオン』。まだ子役だったナタリー・ポートマンが、当時から可愛くて、演技も素晴らしく、虜になった方も多かったのではないでしょうか?今回はそんな本作をリメイクするとしたら、ジャン・レノが演じたレオン・モンタナ、ナタリー・ポートマンが演じたマチルダ・ランドーを、誰が演じるのが良いか、考えて頂きました!

映画『アトミック・ブロンド』シャーリーズ・セロン 楽しい妄想シリーズ:1日あの人になってみたい!〜アクション俳優編〜

楽しい妄想シリーズとして、新たに「1日あの人になってみたい!」企画をスタート。第1弾は“アクション俳優編”です。皆さんがもし1日だけアクション俳優になって映画に出られるとしたら、誰になってみたいですか?今回も楽しく妄想しながら回答頂きました!

映画『タイタニック』レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット あの名作をリメイクするとしたら、誰をキャスティングする?『タイタニック』

「勝手にキャスティング企画!」第2回は『タイタニック』。名作中の名作で、日本でも一大ムーブメントを起こしたあの頃が懐かしいですね。今回はそんな本作をリメイクするとしたら、レオナルド・ディカプリオが演じたジャック・ドーソン、ケイト・ウィンスレットが演じたローズ・デウィット・ブカターを、誰が演じるのが良いか、考えて頂きました!

REVIEW

  1. 映画『この世の果て、数多の終焉』ギャスパー・ウリエル
  2. 映画『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』アダム・ディヴァイン
  3. 映画『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕』チャド・マイケル・コリンズ
  4. 映画『糸』菅田将暉/小松菜奈

  5. 映画『ハニーボーイ』ノア・ジュプ
  6. 映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』ジェームズ・ノートン
  7. 映画『ジョーンの秘密』ジュディ・デンチ/ベン・マイルズ
  8. 映画『思い、思われ、ふり、ふられ』浜辺美波/北村匠海/福本莉子/赤楚衛二
  9. 映画『ブレスレット 鏡の中の私』メリッサ・ゲール
  10. 映画『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』

部活・イベント

  1. トーキョー女子映画部主宰:マイソン アバターイラスト10周年
  2. 映画『スキャンダル』シャーリーズ・セロン/ニコール・キッドマン/マーゴット・ロビー
  3. 海外ドラマ『SUITS︓ジェシカ・ピアソン』ジーナ・トーレス/モーガン・スペクター/シャンテル・ライリー/ベサニー・ジョイ・レンツ/サイモン・カシアニデス/ウェイン・デュヴァル
  4. 映画『ダウントン・アビー』ヒュー・ボネヴィル/エリザベス・マクガヴァーン/マギー・スミス/ミシェル・ドッカリー/ローラ・カーマイケル/アレン・リーチ/ブレンダン・コイル/ジョアン・フロガット/ロブ・ジェームス=コリアー/レスリー・ニコル/ソフィー・マックシェラ/マシュー・グード/ジム・カーター/イメルダ・スタウントン
  5. 映画『おいしい家族』完成披露試写会(第105回部活)松本穂香、ふくだももこ監督
PAGE TOP