学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画26:異食症はなぜ起こる?

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『Swallow/スワロウ』ヘイリー・ベネット

幼児に多く見られると言われる異食症ですが、大人にもその症状がある場合、どんなことが起こっているのでしょうか?今回は映画『Swallow/スワロウ』を題材に考えてみます。

※ネタバレ注意!

ある意味本能的な行為に何が見える?

「心理学辞典」によると、異食症とは「食物として適当でないものを口に入れる行為をいう」とあります。例としてあげられるのは、砂、土、草、髪の毛、布きれ、糞などです。幼児に起こる場合は、外界への探索行動や吸啜(きゅうてつ:強く吸うこと。乳児が反射的にお乳を吸い付く行為)の要求、栄養素の欠乏などが原因と考えられています。また、食用に適するかどうかの識別能力の遅滞や障がいによる場合、ストレスによる心因反応である場合もあるとされています(小林, 1999)。

映画『Swallow/スワロウ』ヘイリー・ベネット

異食症は子どもだけではなく、妊婦や若者にも多く見られるようで、妊婦の場合は、無性に氷を食べたくなる氷食症という病気もあるようです。映画『Swallow/スワロウ』の主人公が妊娠した際にも氷をボリボリかじる場面が出てきますが、この段階では妊娠がきっかけで表れた症状のように思えます。

でも、本作の主人公が呑み込む対象はどんどん変化していきます。中には尖ったものや、割と大きいものまであり、呑み込んだ後、身体から出てくるとそれを戦利品のようにコレクションしていきます。この辺りからは異食症の症状というのではなく、映画的な設定だと考えられますが、彼女の深層心理を表しているように思います。

映画『Swallow/スワロウ』ヘイリー・ベネット

ここからはあくまで私の解釈ですが、この主人公の背景が見えるにつれて、彼女の場合は心因反応の異食症で、本当の原因はもっと根深いところにあるのがわかってきます。最初は妊娠が原因と思われ、次に夫とその家族の中での疎外感や日々の孤独感がストレスになっているように見えます。この2点とも要因ではあると思うのですが、この先にもっと根深いものを彼女は抱えています。

物語が進んでいくと、彼女は母親がレイプされた末に生まれた子どもで、キリスト教徒の母は堕胎せずに彼女を生んだことがわかります。彼女の中のストーリー(歪んだ記憶)としては、母親は彼女の後に生まれた子ども達と変わらず可愛がってくれたと言っていますが、実際はそうでなかったことも終盤のシーンで見えてきます。

また彼女が母を犯した男、つまり自分の遺伝子上の父に会いに行くことで、これがトラウマになっていたことがうかがえます。彼とのやり取りから、彼女自身、自分が生まれてきても良かったのかどうか、父の遺伝子を不幸にも受け継いでしまってないだろうかという不安を抱えていたのではないかと捉えられます。

映画『Swallow/スワロウ』ヘイリー・ベネット

つまり、妊娠が彼女のトラウマの引き金となり、さらに夫との間には愛がなかったことを知って、自分がこのまま子どもを産むべきかどうかを悩んでいたのだと考えられます。結末で彼女がどう決断したのかがわかりますが、彼女が異物を呑んでは身体から排出する行為は、彼女が抱えていて辛いものを外に出せることを証明する安心感を得るためだったのかもしれません。

誤解を招かないように付け加えると、本作は妊婦に見られる異食症を代表する例というわけではなく、異食症をきっかけに女性が抱える社会的な問題を描写しているのだと思います。異食症そのものもショッキングに描かれていますが、望まない妊娠における女性の選択の権利が、本作の1番のテーマではないかと思います。

そういった意味でも、女性として共感できる点、考えさせられる点が多いので、ぜひ女性の皆さんに観て欲しいと思います。ただし、妊婦さんは今観るとショックが大きいと思うので、落ち着いたら観てみてください。

<参考・引用文献>
小林正幸(1999)異食症 中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁枡算男・立花政夫・箱田裕司(編)「心理学辞典」有斐閣 pp.30

映画『Swallow/スワロウ』ヘイリー・ベネット

『Swallow/スワロウ』
2021年1月1日より全国公開
R-15+

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

裕福な家庭に育ったエリートと結婚した主人公ははじめ幸せそうに見えますが…。彼女の異食症がエスカレーターするにつれ、いろいろなところにほころびが出てきます。

Copyright © 2019 by Swallow the Movie LLC. All rights reserved.

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ハムネット』ジェシー・バックリー ハムネット【レビュー】

REVIEW『ハムネット』という響きから、もしかしてあの名作に何らかの関係があるのかもしれ…

映画『終点のあの子』南琴奈 南琴奈【ギャラリー/出演作一覧】

2006年6月20日生まれ。埼玉県出身。

海外ドラマ『華麗なるマードー家』パトリシア・アークエット/ジェイソン・クラーク 華麗なるマードー家【レビュー】

2021年6月7日、アメリカのサウスカロライナ州の法曹界で代々名を馳せてきたマードック家のアレックス・マードックが、妻と次男を射殺した実際の殺人事件を基にしています…

映画『プラダを着た悪魔2』来日スペシャルイベント:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ メリル・ストリープ&アン・ハサウェイがK(& TEAM)や日本の若者に熱い言葉『プラダを着た悪魔2』来日スペシャルイベント

20年経っても絶大な人気を誇る『プラダを着た悪魔』の続編がまもなく公開!そして、この度、アン・ハサウェイとメリル・ストリープが揃って来日してくれました。

映画『ソング・サング・ブルー』ヒュー・ジャックマン/ケイト・ハドソン ソング・サング・ブルー【レビュー】

演技力だけでなく、歌唱力にも定評のあるヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンが主演を務める本作は…

映画『ダメ男に復讐する方法』キャメロン・ディアス/レスリー・マン/ケイト・アプトン 未公開映画活性課タ行

未公開作品のなかから、当部が気になる作品、オススメしたい作品をご紹介。

映画『OCHI! -オチ-』ヘレナ・ツェンゲル OCHI! -オチ-【レビュー】

REVIEW森の奥深くに住む不思議な動物オチと、オチを恐れ排除しようとする人間の姿を映す本…

映画『ハウス・オブ・ザ・デビル』トム・ヌーナン トム・ヌーナン【ギャラリー/出演作一覧】

1951年4月12日生まれ。アメリカ出身。

映画『スペシャルズ』佐久間大介(Snow Man) 映画レビュー&ドラマレビュー総合アクセスランキング【2026年3月】

映画レビュー&ドラマレビュー【2026年3月】のアクセスランキングを発表!

映画『落下音』ハンナ・ヘクト 落下音【レビュー】

すごく噛み応えのある作品です。タイトルについている“落下音”が…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

【映画学ゼミ第7回】「そもそも感情ってどうやって湧いてくるの?感情の仕組み」参加者募集! 【映画学ゼミ第7回】「そもそも感情ってどうやって湧いてくるの?感情の仕組み」参加者募集!

感情はまだまだ謎が多く、本当に複雑で深い概念だからこそおもしろい!感情について少しでも知ることで、自分自身の情動コントロールにも少し役立つはずです。

映画『国宝』吉沢亮 映画好きが選んだ2025邦画ベスト

今回は、正式部員の皆さんに投票していただいた2025年邦画ベストの結果を発表!2025年の邦画ベストで上位にランクインしたのはどの作品でしょう?

ショートドラマ『復讐同盟 —サレ妻と愛人はクズ旦那を制裁する—』 私ならこうする!『復讐同盟 —サレ妻と愛人はクズ旦那を制裁する—』を観た女子の本音

ショートドラマ『復讐同盟 —サレ妻と愛人はクズ旦那を制裁する—』をトーキョー女子映画部正式部員の皆さんに観ていただき、感想や「私ならこうする!」を聞いてみました。

学び・メンタルヘルス

  1. 【映画学ゼミ第7回】「そもそも感情ってどうやって湧いてくるの?感情の仕組み」参加者募集!
  2. 【映画学ゼミ第6回】「鑑賞者のローカス・オブ・コントロールと、映画鑑賞における着眼点・感想の関係」参加者募集!
  3. 【映画学ゼミ第5回】「登場人物にみる人間の非合理性」参加者募集!

REVIEW

  1. 映画『ハムネット』ジェシー・バックリー
  2. 海外ドラマ『華麗なるマードー家』パトリシア・アークエット/ジェイソン・クラーク
  3. 映画『ソング・サング・ブルー』ヒュー・ジャックマン/ケイト・ハドソン
  4. 映画『OCHI! -オチ-』ヘレナ・ツェンゲル
  5. 映画『スペシャルズ』佐久間大介(Snow Man)

PRESENT

  1. 映画『オールド・オーク』デイヴ・ターナー/エブラ・マリ
  2. 映画『ミステリー・アリーナ』唐沢寿明
  3. ドラマ『外道の歌 SEASON2』窪塚洋介/亀梨和也/南沙良
PAGE TOP