学び・メンタルヘルス

心理学から観る映画35:自動思考がもたらす害

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『カオス・ウォーキング』トム・ホランド

自分や他者の思考がむき出しになっている世界を描いた『カオス・ウォーキング』。この映画を観ていると、人間にとって“何も考えないようにすること”はとても難しいことがわかります。そこで今回は“自動思考”による影響についてご紹介します。

普段私達は何かを見たり聞いたりした時に「綺麗だな」「楽しそうだな」「あの人は嫌いだ」「何だか不愉快だ」などというように感情や評価が自然に湧いてきます。でも、その一つひとつに毎回意識を向けているわけではありません。それが映画『カオス・ウォーキング』では、いちいち自分の思考が表面に見える形で表れてしまうために、本人もそれを意識することになります。そうなると「そんなことを考えるなんておかしな人だと思われる!」「あの人に本心を知られたら恥ずかしい」「秘密がバレてしまう」という不安が湧いてきます。それってすごく疲れるし、しんどいですよね。だからまさに『カオス・ウォーキング』で描かれる状況は、“カオス(混沌)”なのだと言えます。

映画『カオス・ウォーキング』トム・ホランド/デイジー・リドリー

私達の実世界で考えてみた場合、他者に心の中を本当の意味で覗かれることはないにしても、自分をごまかすことはできません。だから、「嫌われたらどうしよう」「失敗したらもう立ち直れない」「こんな発言をしたらバカにされてしまうかも」というように、ネガティブな思考に毎度意識が向いてしまうとどんどん辛くなっていきます。また、例えば友達に挨拶をした時にその友達が挨拶を返さなかった場合に、ある人は「気付かなかっただけだろうな」とやり過ごすのに対して、ネガティブな思考がクセになっている人は「無視された、嫌われてるんだ」と捉えてしまうというように、出来事一つひとつの受け止め方がネガティブになってしまいます。そして、そういった経験が積み重なってくると、不安症やうつ病になる可能性が出てきます。

映画『カオス・ウォーキング』マッツ・ミケルセン

ベックの認知理論では、うつ病患者の情報処理について、出来事を事実よりも否定的なものとして処理したり、情報の一部のみを処理したりするなどの偏りが生じているとされ、それを「体系的な推論の誤り」と呼びました。この処理によってネガティブに歪められた情報が自動思考となって体験されることになります。また、体系的な推論の誤りが生じるメカニズムには“スキーマ”が深く関わるとされています。スキーマとは、「…すべきだ」「いつも…である」というような信念や前提であり、幼少期から学習され維持されてきた安定的な認知構造のことです。このスキーマと出来事が合致することでスキーマが活性化され、体系的な推論の誤りが生じることになります(丹野ほか,2015)。

【推論の誤り】の例
全か無か思考
未来の否定的予測
肯定的な面の否定や軽視と、否定的な面の不合理な重視
レッテル貼り
全体を見ずに否定的で些細なことに極端に注目する
他人の態度を何でも自分のせいだと思い込む
…etc.

自動思考は無意識に出てくるものなのでそれを制御するのは難しいですが、認知理論の考え方からすると出来事の受け止め方や捉え方次第だとも言えます。いつもネガティブな思考に辛い思いをされている方は、幼少期から根付いてしまっているものを変えるのは簡単ではありませんが、一旦自分の思考のクセを俯瞰して、推論の誤りかもしれないと客観視するところから変えてみても良いのではないでしょうか。

<参考・引用文献>
丹野義彦・石垣琢磨・毛利伊吹・佐々木淳・杉山明子(2015)「臨床心理学」有斐閣

映画『カオス・ウォーキング』トム・ホランド/デイジー・リドリー

『カオス・ウォーキング』
2021年11月12日より全国公開

REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

思考がむき出しになっているこの世界では、自分の思考をコントロールすることに長けている人物が権力を保持しています。彼は人間的なお手本とはいえませんが、自分の思考に振り回されている間は何事にも不利になるということが客観視できます。

© 2021 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.

『サトラレ』
DVDレンタル・発売中

思考を周囲の人に知られてしまう主人公の物語。主人公は他人に自分の思念を知られていることに気付いていないというところがミソ。

サトラレ TRIBUTE to a SAD GENIUS [DVD]

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『ダウントン・アビー/グランドフィナーレ』ローラ・カーマイケル ローラ・カーマイケル【ギャラリー/出演作一覧】

1986年7月16日生まれ。イギリス出身。

映画『MERCY/マーシー AI裁判』クリス・プラット/レベッカ・ファーガソン MERCY/マーシー AI裁判【レビュー】

人間 vs. AIという構図になっているかと思いきや…

映画『ヒグマ!!』鈴木福/円井わん ヒグマ!!【レビュー】

『先生を流産させる会』『ライチ☆光クラブ』『許された子どもたち』等を手がけた内藤瑛亮監督作ということで、社会問題を絡めた作品だろうと予想…

映画『エクストリーム・ジョブ』リュ・スンリョン/イ・ハニ/チン・ソンギュ/イ・ドンフィ/コンミョン(5urprise) エクストリーム・ジョブ【レビュー】

本作の主人公は麻薬班の刑事5人です。彼等の登場シーンからコミカルで、一瞬で…

映画『パンダプラン』ジャッキー・チェン/フーフー パンダプラン【レビュー】

スター並みに大人気の稀少なパンダが、何者かに狙われ、パンダの里親になったばかりのジャッキー・チェン本人がパンダを守る…

映画『喝采』キャシー・ベイツ キャシー・ベイツ【ギャラリー/出演作一覧】

1948年6月28日生まれ。アメリカ、テネシー州メンフィス出身。

映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2』 ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2【レビュー】

かつて子ども達に人気だったピザレストラン“フレディ・ファズベアーズ・ピザ”で恐ろしい体験をしたマイク(ジョシュ・ハッチャーソン)と妹のアビー(パイパー・ルビオ)、警察官のヴァネッサ(エリザベス・レイル)は、あれから1年半経ち、平穏な日々を取り戻しつつあり…

映画『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』ロムニック・サルメンタ/イライジャ・カンラス アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス【レビュー】

怖い!巧い!物語の舞台はレストランの一席、ほぼ2人の登場人物で展開される会話劇で、ここまでスリリングな作品に仕立て上げるとは…

映画『恋愛裁判』唐田えりか 唐田えりか【ギャラリー/出演作一覧】

1997年9月19日生まれ。千葉県出身。

映画『グッドワン』リリー・コリアス 利口な子どもに甘える大人『グッドワン』【映画でSEL(社会性と情動の学習)】

今回は、父と娘、父の友人の3人で出かけたキャンプでの様子を描く『グッドワン』を取り上げ、娘サム、父クリスと、その友人マットそれぞれの視点でどんな思考が働いていたかを想像してみます。

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『ウィキッド ふたりの魔女』シンシア・エリヴォ/アリアナ・グランデ トーキョー女子映画部が選ぶ 2025年ベスト10&イイ俳優MVP

2025年も毎年恒例の企画として、トーキョー女子映画部の編集部マイソンとシャミが、個人的なベスト10と、イイ俳優MVPを選んでご紹介します。

映画『チャップリン』チャーリー・チャップリン『キッド』の一場面 映画好きが選んだチャーリー・チャップリン人気作品ランキング

俳優および監督など作り手として、『キッド』『街の灯』『独裁者』『ライムライト』などの名作の数々を生み出したチャーリー・チャップリン(チャールズ・チャップリン)。今回は、チャーリー・チャップリン監督作(短編映画を除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画『グッドワン』リリー・コリアス
  2. 人間として生きるおもしろさを知る【映画学ゼミ第4回】参加者募集
  3. 映画『殺し屋のプロット』マイケル・キートン

REVIEW

  1. 映画『MERCY/マーシー AI裁判』クリス・プラット/レベッカ・ファーガソン
  2. 映画『ヒグマ!!』鈴木福/円井わん
  3. 映画『エクストリーム・ジョブ』リュ・スンリョン/イ・ハニ/チン・ソンギュ/イ・ドンフィ/コンミョン(5urprise)
  4. 映画『パンダプラン』ジャッキー・チェン/フーフー
  5. 映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2』

PRESENT

  1. 映画『アウトローズ』ジェラルド・バトラー
  2. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』チャージングパッド
  3. 映画『ツーリストファミリー』シャシクマール/シムラン/ミドゥン・ジェイ・シャンカル/カマレーシュ・ジャガン/ヨーギ・バーブ
PAGE TOP