心理学

心理学から観る映画47:動物が人に与える心理的影響【ペットロス、動物介在教育】

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映画『石岡タロー』

今回は、人間と犬との深い絆が描かれた作品をご紹介しつつ、動物が人に与える心理的影響に関する専門家の研究をご紹介します。

※ネタバレ注意!

映画『DOGMAN ドッグマン』ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
『DOGMAN ドッグマン』

最初にご紹介する映画は、リュック・ベッソン監督、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ主演の『DOGMAN ドッグマン』です。主人公のダグラスは何十匹もの犬と生活しています。彼は犬と会話をしているように思えるほど、犬と心を通わせています。彼が犬を愛する理由は、無償の愛を注いでくれるからであり、彼の苦悩の背景には複雑な家庭環境がありました。

次にご紹介する『石岡タロー』は実話をもとにした作品です。タローは、昭和39年(1964年)に茨城県石岡市にある東小学校で保護され、ずっと小学校で飼われていました。実はタローはもともとコロという名前の犬で、ある時、元の飼い主と離れてしまい、帰れなくなったのです。その後、タローは17年間、元の飼い主とはぐれてしまった石岡駅に毎日朝晩通い続けました。その17年間の軌跡と、タローが元の飼い主と離れてしまってから45年後に起きた奇跡については映画をご覧いただければと思います。

映画『石岡タロー』
『石岡タロー』

この『DOGMAN ドッグマン』と『石岡タロー』はまったくジャンルもタイプも異なる作品ですが、いくつか共通点があります。まず、登場する犬がとても賢い!『DOGMAN ドッグマン』はフィクションでありつつ、演技をしている犬達の賢さが映像から伝わってきます。『石岡タロー』は実話であることに驚くほどタローがお利口です。タローは人に絶対に危害を加えない穏やかな性格で、誰も教えていないのにビックリするほど賢い行動をとります。17年間、毎日同じ時間に駅に通っていたと聞いただけでも、その賢さは伝わると思いますが、映画を観るとそれ以上に驚く行動がいくつもあります。

映画『DOGMAN ドッグマン』
『DOGMAN ドッグマン』

2つ目の重要な共通点は、犬と飼い主の深い絆です。そこで、まずペットロスについての文献から知見をご紹介します。

一般的には犬や猫はペットとして認識されますが、飼い主によっては家族同然という認識の方もいるでしょう。そして、その“家族”は人間よりも寿命が短いため、多くの場合、先にこの世を発ちます。もしくは、本作のように死別ではなく、何かが原因で離れることもあり、その時の喪失感は人によって異なるものの、可愛がっていた飼い主にとっては大変大きなものとなります。濱野(2021)は、Keddie(1997)から「ペット喪失後の悲嘆は人を喪失したときと類似の反応であり、ペット喪失後の適応の過程は重要な他者と死別したときと類似している」と引用し、動物の死を人の死と同じように悲しむことに対して周囲から疑問を抱かれたり、「代替可能な動物の死」と捉えられることが、飼い主の悲しみに追い打ちをかけると述べています。

『石岡タロー』では、元の飼い主である幼い少女がコロ(=タロー)と離れてしまい、悲嘆にくれます。彼女が受けたショックがいかに大きかったかは映画を観るとわかります。生活を共にする動物は、他者が思う以上に当事者の人間にとって重要な存在であり、生きる糧になることもあると思います。『石岡タロー』では、タローが小学校の児童達皆に愛され、石岡の町の人々にも愛され、大きな存在であった様子も映し出しています。また、『DOGMAN ドッグマン』でも、主人公ダグラスが過酷な環境で生きのびられたのは犬達がいたからであり、ダグラスがあそこまでして犬と一緒にいようとする行動は理に適っています。

映画『石岡タロー』
『石岡タロー』

そして、この2作品に共通するもう1つのポイントは、子どもと犬の触れあいです。ここで、動物と子どもの触れあいについて研究された文献の一部をご紹介します。

中島(2021)は、欧米で広まりつつある動物介在教育(Animal Assisted Education:AAE)において、実は日本が先進国であると述べています。日本は学校教育として動物飼育を行ってきた唯一の国だそうです。ただし、「日本のAAEの特徴は動物飼育、(中略)欧米でのAAEの多くは、動物が子どもたちの機能を補い介助することを主目的に導入されてきた」という違いがあるようです(中島,2021)。中島(2020)による3年間に及ぶ研究では、飼育を通した「動物への理解」「飼育の楽しさ」「命への責任」が、「学校適応や他者への共感性、向社会的行動に関係があった」という結果が報告されています。そして、その結果から『学校に動物がいること』ではなく、『動物との触れあいや世話』が子どもの心の発達には大事」と結論づけています。

『石岡タロー』のタローも小学校で飼われていました。お世話は用務員さんが行っていたようですが、タローは自由に学校内にいて子ども達と触れあっていました。学校としてタローをどのような存在として扱うかを問われる場面もあり、AAEの観点で観ても興味深い事例といえます。

映画『DOGMAN ドッグマン』
『DOGMAN ドッグマン』

『DOGMAN ドッグマン』でも、幼かった頃のダグラスが犬達と運命共同体だったことで、あれほど過酷な環境で育ちながら優しい一面を持ち続けた彼のキャラクターに説得力をもたらしています。リュック・ベッソン監督がAAEの観点を用いたかはわかりませんが、筋が通ったキャラクター設定といえそうです。

研究結果からも動物の存在は思っている以上に人間に大きな影響を与えていることが示されています。このような背景を知った上で、ここで紹介した2作をはじめ、動物と人との触れあいを描いた作品を観ると、新たな視点も得られそうです。

<参考・引用文献>
濱野佐代子(2021)「ペットロス—コンパニオンアニマルとの別れ」心理学ワールド92,5-8
Keddie,K.M.G.(1997)Pathological mourning after the death of a domestic pet. British Journal of Psychiatry,131.21-25
中島由佳(2020)「鳥インフルエンザ後の学校動物飼育の実態調査および子どもの心理的発達への飼育の効果究」平成29〜31年度科学研究費補助金(基礎研究C)研究成果報告書
中島由佳(2021)「学校教育における動物の役割と現状」心理学ワールド92,9-12

映画『DOGMAN ドッグマン』ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

『DOGMAN ドッグマン』
2024年3月8日より全国公開中
クロックワークス
監督・脚本:リュック・ベッソン
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/ジョージョー・T・ギッブス/クリストファー・デナム/クレーメンス・シック
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

身寄りもなく、足が不自由なダグラスが生きのびた背景には、心と身体を支えてきた犬達の存在があり…。

© Photo: Shanna Besson – 2023 –LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.

映画『石岡タロー』

『石岡タロー』
2023年10月20日より全国順次公開/2024年3月29日より東京公開
CHIPANGU、エレファントハウス、ワン・ポイント・シックス
監督・脚本:石坂アツシ
出演:山口良一/渡辺美奈代/松木里菜/寺田藍月/山東文発/青木日菜/まいど豊/グレート義太夫/菊池均也/チャッピー/チャビ/ダイ
公式サイト 

17年間、自分を可愛がってくれた少女に会いたくて毎日朝晩石岡駅に通ったタロー。タローが飼い主とはぐれてから45年後にも奇跡が起こります。

©2023 ONE POINT SIX

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

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