心理学

心理学から観る映画2-2:働く人のモチベーション【職務充実】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『架空OL日記』バカリズム/夏帆/臼田あさ美/佐藤玲/山田真歩

前回は、公式集団、非公式集団についてご紹介しました。その例として、『前田建設ファンタジー営業部』を挙げましたが、今回ご紹介する『架空OL日記』の女性社員の仲良しグループは、もっとわかりやすい非公式集団の例ですので、そういう点でもぜひチェックして頂きたいところです。
そして今回は、仕事に対する満足感、不満足感について取り上げますが、『架空OL日記』の始まりではまさに休日についての会話が繰り広げられています。週にどれだけ休みが取れるかというのはモチベーションに繋がりそうですが、これまでに行われた代表的な“満足要因、不満足要因についての研究”をピックアップしてご紹介します。

<参考・引用文献>
佐々木士師二(1996) 「産業心理学への招待」(有斐閣)
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところは本記事筆者の考察を掲載しています。

ハーズバーグによる研究

  • 苦痛回避欲求=生命喪失、呼吸困難、飢え、性的欠乏などの苦痛を回避したいという欲求
  • 自己成長欲求=精神的成長を継続し、自らの潜在能力を実現し、自己意識を持って創造的でユニークな個人に自分を仕上げようとする欲求

ハーズバーグは、仕事に対する満足感の構造を研究していました。彼は上記の人間が持つ二組の基本的欲求は、仕事の動機づけにもあるとし、職務に関する「動機づけ=衛生理論」(Motivator-Hygiene Theory)を提唱しました。彼の最初の研究では、200人の技師や会計士に対して面接調査が行われ、職務について「例外的によく感じたこと」「例外的に悪く感じたこと」の事象発生時期と理由、持続期間、仕事や社会生活への影響、深刻感などに関する自由回答が求められました。その分析の結果、【達成、承認(達成を承認すること)、仕事そのもの、責任、昇進】の5つの要因が職務満足に関連した要因として際立っていましたが、これは不満足要因に関連しては現れることはありませんでした。一方、不満足要因としては、【会社の政策と経営、監督、給与、対人関係、作業条件など】が挙げられましたが、態度変化への影響は短かったとされました。

この結果は満足要因と不満足要因は別物であると示しましたが、この2つの要因は表裏の関係ではありません。満足要因は職務満足感を生み出しますが、不満足要因は職務不満足を生み出すもので、そこに問題がない状況では不満がないだけで満足を生むわけではないということです。つまりこの2要因は別次元のものなので、不満足要因が減っても満足を生み出すわけではなく、満足をさせたいならば、満足要因を改善すべきということになります。この2要因は、不満足要因=衛生要因(hygiene factor)、満足要因=動機づけ要因(motivator)と呼ばれており、技師と会計士への面接調査以外にも追跡調査が行われました。ハーズバーグは17の職種について結果を総括し、動機づけ=衛生理論がほとんど完全に支持されていると結論付けています。

ですが、このハーズバーグの研究に対しては支持派、否定派の両方がいます。動機づけ=衛生理論については多くの実証分析が行われてきたようですが、「技師や会計士のような専門職種に対する調査を一般化するのには無理がある」「職務要因を2次元的にとらえるのは単純すぎる」など、さまざまな意見が出ています。

ワーク・モチベーションの研究は他にもたくさんなされていますが、国、職種、性別ほか、個人個人の状況の違いもあるので、一概にこうすればこうなるという結論を出すのは難しい部分があります。例えば金銭的満足をとってみても、明日の生活にも困っているような状況なのか、贅沢な暮らしができている状況なのかによっても満足、不満足が変わってくるように、やはり働き手一人ひとり、また同じ人物でもその時の状況それぞれに合った方法を見つけるしかなさそうです(苦笑)。

というわけで、ここで「これが解決策だ!」と言えないのが心苦しいですが、やはり“人”の問題なので、コミュニケーションを取りながら、それぞれが満足できる状況を一緒に作っていかなくてはいけないのだと思います。ただ、あらゆる研究から、単純に“給料の問題”“役職の問題”などではないということがわかっているだけでも、改善の余地、手段が多くあると解釈すれば、少し希望も見えてくるのではないでしょうか。

他にもいろいろな理論があり、視点もいろいろあるので、このテーマについては、またいつか取り上げたいと思います。

映画『架空OL日記』バカリズム/夏帆/臼田あさ美/佐藤玲/山田真歩

『架空OL日記』
2020年2月28日より全国公開
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

第36回向田邦子賞を受賞した、お笑い芸人バカリズムの小説を映画化。銀行に勤める女性社員の仲良しグループの日々を描く。休みに関すること、社内のルール、上司のことなど、たわいもない会話とやりとりが共感を呼ぶ。

©2020『架空OL日記』製作委員会

ジュリーと恋と靴工場(字幕版)

『ジュリーと恋と靴工場』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

閉鎖の危機に直面している高級靴工場の女性達と、そこに就職した25歳の女性ジュリーの日々を描く。可愛らしい世界観で繰り広げられるミュージカルと思いきや、不満を持った労働者達と、雇用側のやりとりがシュール。

TEXT by Myson(認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『パリタクシー』クリスチャン・カリオン監督インタビュー 『パリタクシー』クリスチャン・カリオン監督インタビュー

不愛想なパリのタクシー運転手が、偶然92歳のマダムを乗せたことをきっかけに、人生が大きく動いていく様子がドラマチックに描かれた映画『パリタクシー』。今回は本作のクリスチャン・カリオン監督にオンライン取材させていただきました。劇中に描かれている家庭内暴力の問題や、大きく年の離れた主人公達の関係をどう見せたかったのか直撃しました。

映画『セールス・ガールの考現学』バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル 『セールス・ガールの考現学』女性限定試写会 5組10名様ご招待

映画『セールス・ガールの考現学』女性限定試写会 5組10名様ご招待

映画『せかいのおきく』黒木華/寛一郎/池松壮亮 せかいのおきく

江戸末期の東京で生きる、22歳のおきく(黒木華)、中次(寛一郎)、矢亮(池松壮亮)の3人の若者の物語。おきくは…

映画『AIR/エア』マット・デイモン/ジェイソン・ベイトマン AIR/エア

ナイキの“エア ジョーダン(Air Jordan)”誕生秘話。いくつかの逸話…

映画『エスター ファースト・キル』イザベル・ファーマン エスター ファースト・キル

1作目の『エスター』の結末がどっひゃーとなるナイスなオチだっただけに…

映画『トリとロキタ』パブロ・シルズ/ジョエリー・ムブンドゥ トリとロキタ

ダルデンヌ兄弟が監督を務める本作は、第75回カンヌ国際映画祭で75周年記念大賞を受賞しています。物語の主人公は…

海外ドラマ『ザ・ボーイズ シーズン1』カール・アーバン カール・アーバン

1972年6月7日ニュージーランド、ウェリントン生まれ。地元で舞台やテレビ、映画への出演をし…

【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート) 新作和風スイーツ登場!【ARUARU海ドラDiner】はティータイムやディナーもオススメ

海ドラファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】では、3月27日(月)より新作デザートが登場します!今回は気になる新メニュー紹介のほか、トーキョー女子映画部スタッフオススメのスイーツや、ダイナーの雰囲気にマッチしたカクテルなどをご紹介します。

映画『生きる LIVING』ビル・ナイ 生きる LIVING

これは、黒澤明監督の『生きる』をリメイクした作品で、ノーベル賞とブッカー賞を受賞したカズオ・イシグロが脚本を務めています…

【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX 4月2日(日)【ARUARU海ドラDiner】にて海ドラファン交流イベント開催決定!

日本初の海外ドラマをコンセプトとしたダイナー【ARUARU海ドラDiner】では、2023年4月2日(日)に海ドラファン交流イベントを実施します!

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

おすすめ記事

【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート) 新作和風スイーツ登場!【ARUARU海ドラDiner】はティータイムやディナーもオススメ

海ドラファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】では、3月27日(月)より新作デザートが登場します!今回は気になる新メニュー紹介のほか、トーキョー女子映画部スタッフオススメのスイーツや、ダイナーの雰囲気にマッチしたカクテルなどをご紹介します。

【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX 4月2日(日)【ARUARU海ドラDiner】にて海ドラファン交流イベント開催決定!

日本初の海外ドラマをコンセプトとしたダイナー【ARUARU海ドラDiner】では、2023年4月2日(日)に海ドラファン交流イベントを実施します!

AXN海外ドラマ『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』ローレン・ライリー 女性という理由で仕事に抜擢された女性刑事は上司や世の中を見返すことができるのか?『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』への期待

25年もの間、捜査が滞っていた未解決の殺人事件を任された、若き女性刑事カレン・ピリーの活躍を描く『刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル』は全3話で構成される英国ミステリーです。この度、本作を独占放送するAXNミステリーさんが…

【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ) 【ARUARU海ドラDiner】絶賛営業中!くじ引きで当たる海外ドラマ豪華グッズ紹介とこぼれ話

海外ドラマファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】では、海外ドラマに登場するフードやドリンクが楽しめるのはもちろん、くじ引きも引けちゃうんですよ!今回はくじ引きで当たる豪華グッズやこぼれ話をご紹介。

映画『トップガン マーヴェリック』トム・クルーズ 映画好きが選んだ2022洋画ベスト

正式部員の皆さんに2022年の洋画ベストを選んでいただきました。候補作品は2022年に劇場公開or配信された洋画(ドキュメンタリー以外の実写)の中から編集部が独断で選抜しました。前回の「2022邦画ベスト」に続き、洋画ではどの作品が上位にランクインしたのでしょうか?

【ARUARU海ドラDiner】プレオープン 海外ドラマファンが集える場所【ARUARU海ドラDiner】3月10日OPEN!多数の企業コラボにより店内には100枚以上のポスターがギッシリ

いよいよ3/10にオープンを迎える【ARUARU海ドラDiner】。本日3/9がプレオープンとなり、トーキョー女子映画部スタッフ、マイソンとシャミが一足お先に完成した【ARUARU海ドラDiner】に行ってきました。今回は本ダイナーの様子を写真と共にお届けします!

「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合 さまざまな分野の専門家が語る「〇〇から見る海外ドラマあるあるTALK」は必見!【ARUARU海ドラDiner】3/10から4/9開催

「こんな場所があったらいいな」という思いのもと、多くの方、多くの企業のご協力により実現しオープンを迎える【ARUARU海ドラDiner】…

「ARUARU海ドラDiner」202303イメージビジュアル 海外ドラマファンが集う場所【ARUARU海ドラDiner】で、海外ドラマの楽しさを提供する多数の企業がコラボ!

多くの企業様にご参加いただいて、さまざまな海外ドラマのポスターや予告編で彩りたい。【ARUARU海ドラDiner】のそんな思いを叶えてくださった企業を今回ご紹介します。

ARUARU海ドラDiner:ロゴ&パースMIX “あるある”がテーマ。語り合いたい「海ドラ好き」に贈る 日本初!海外ドラマPopupコンセプトカフェ、東京・池袋の「Mixalive TOKYO」にて開催

日本初の海外ドラマコンセプトカフェを、「トーキョー女子映画部」のプロデュースにより、2023年3月10日(金)~4月9日(日)の期間限定で開催します。

映画『キングダム2 遥かなる大地へ』山﨑賢人 映画好きが選んだ2022邦画ベスト

昨年に続き正式部員の皆さんに2022年の邦画ベストを選んでいただきました。候補作品は2022年に劇…

REVIEW

  1. 映画『せかいのおきく』黒木華/寛一郎/池松壮亮
  2. 映画『AIR/エア』マット・デイモン/ジェイソン・ベイトマン
    AIR/エア

  3. 映画『エスター ファースト・キル』イザベル・ファーマン
  4. 映画『トリとロキタ』パブロ・シルズ/ジョエリー・ムブンドゥ
    トリとロキタ

  5. 映画『生きる LIVING』ビル・ナイ
    生きる LIVING

  6. 映画『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザー
    ザ・ホエール

  7. 映画『マッシブ・タレント』ニコラス・ケイジ
  8. 映画『ロストケア』松山ケンイチ/長澤まさみ
    ロストケア

  9. 海外ドラマ『THE LAST OF US』ペドロ・パスカル/ベラ・ラムジー
    THE LAST OF US

  10. 映画『シャザム!~神々の怒り~』ザッカリー・リーヴァイ

PRESENT

  1. 映画『セールス・ガールの考現学』バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル
  2. 中国ドラマ『黒豊と白夕~天下を守る恋人たち~』ヤン・ヤン/チャオ・ルースー
  3. 映画『銀河鉄道の父』役所広司/菅田将暉/森七菜/豊田裕大/坂井真紀/田中泯
PAGE TOP