REVIEW
本作は、デビュー作『僕はイエス様が嫌い』(2019)でサンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞した奥山大史監督の作品です。『ぼくのお日さま』というタイトルは、ハンバート ハンバートの代表曲“ぼくのお日さま”に由来しています。ハンバート ハンバートは奥山監督から手紙をもらい、主題歌とタイトルの使用を快諾、佐藤良成が本作の音楽も手がけているとのことです(映画公式サイトより)。
野球を習ってもアイスホッケーを習っても何だかしっくりいかないタクヤ(越山敬達)は、ある日スケートリンクでフィギュアスケートの練習をしているさくら(中西希亜良)の姿に見とれてしまいます。それからタクヤはアイスホッケーのシューズのまま1人で黙々とフィギュアスケートのターンを練習するようになります。そんな姿を見たさくらのコーチ荒川(池松壮亮)はタクヤにフィギュアスケートを教えるようになり、やがて妙案を思い付きます。
夢を諦めて地元に戻ってきた男と、地元の少年少女がスケートリンクで出会い、フィギュアスケートを通して、温かい関係を築いていきます。でも、それで終わらないところが本作の最大の見どころといえて、思春期の心情の複雑さを実感します。タクヤがさくらを見て感じた気持ちが何なのか、さくらが荒川コーチに抱いていたものは何だったのか、簡単に一言で言い表すのは難しく、鑑賞後に考えが巡る余韻が残ります。誰も悪くないのにいろいろ残酷で、そういうところがとても生々しい点が本作の魅力だと感じます。
とはいえ、『ぼくのお日さま』というタイトルから伝わってくるように、温かく爽やかなストーリーです。自分の心を照らし温かくしてくれる存在がいるって素敵なことです。清々しいラストシーンは、微笑ましく、子ども心のしなやかさと逞しさを感じます。
ここからはあくまで私個人の解釈ですので、鑑賞後にお読みください。
本作を観て、私もタクヤやさくらの年頃に感じた同じような気持ちが蘇りました。気づいたのは思春期の自分でもよくわからない感情って、憧れに似ているということです。そもそも恋が何かがわかっていないので、本人は恋なのかどうかは判別できない。正直なところ付き合いたいという具体的な欲望はまだなくて、ただただその人が一生懸命に何かに打ち込んでいる姿を見ているだけで心が満たされるような経験が私にもありました。私の場合、仲を取り持とうとする第三者のお節介によって、これは恋ではないと気づいたのですが(苦笑)、もちろん本作のストーリーはどうなのかは別の話です。とにかく、本作はそんな複雑な思春期の心情をリアルに描いていて、キュンとしたりホッコリします。タクヤやさくらと同年代の方はもちろん、大人もあの頃の自分に戻ってみてはどうでしょうか。
デート向き映画判定
大人カップルが観ると、自分達にもこういう時期があったよねとほのぼのと感想を話せるでしょう。ティーンの皆さんは、友達以上恋人未満の2人で観に行った場合、各々の気持ちがどっちに転ぶかわかりません(笑)。自分の気持ちが何なのかまだハッキリしていない場合は、友達と観るか1人でじっくり観るほうが気持ちの整理をつけ易いかもしれません。
キッズ&ティーン向き映画判定
小学校高学年から中学校1年生くらいで、タクヤやさくらと同年代の皆さんは、等身大で観られると思います。何となく気になる人がいる方は、自分の気持ちを客観視できるかもしれません。家族と観るよりは、仲の良い友達と観るほうが、感想を話し易く、相談するきっかけにもできそうです。
『ぼくのお日さま』
2024年9月13日より全国公開
東京テアトル
公式サイト
© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
TEXT by Myson
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情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。