安部公房が1973年に発表した小説を石井岳龍が映像化した『箱男』。今回は本作で謎多き女性、葉子役を演じた白本彩奈さんにお話を伺いました。葉子を演じる上で準備されたことや、俳優のお仕事を続ける上で常に意識されていることについて聞いてみました。
<PROFILE>
白本彩奈(しらもと あやな):葉子 役
2002年5月14日生まれ。東京都出身。3歳で芸能界入り、8歳から本格的に子役として活動。主な出演作品は、ドラマ『最後から二番目の恋』シリーズ(2012,2014/CX)、Amazonプライム・ビデオ『仮面ライダーアマゾンズ Season2』(2017)、『山本周五郎ドラマ さぶ』(2020/NHK)、舞台「DECADANCE -太陽の子-」(2020)、舞台「地獄楽」(2023)など。今作の映画『箱男』では、謎の女・葉子役を好演。ドラマ『江戸川乱歩原作 名探偵・明智小五郎「黒蜥蜴」』がBS-TBSにて9月29日放送予定。
こんな機会は今後きっとないだろうという気持ちで臨みました
シャミ:
オーディションで葉子役に抜擢されたそうですが、役が決まった時の心境はいかがでしたか?
白本彩奈さん:
本当に嬉しくてガッツポーズをしました。オーディション期間中は、たくさん準備をして臨んだので、ホッとした気持ちも混じっていました。
シャミ:
安心された部分もあったんですね。オーディションを受けるにあたり、ご自身で葉子というキャラクターとどのように向き合いましたか?
白本彩奈さん:
最初に原作を読んだのですが、原作と台本では少し違う部分もあったので、原作を理解しつつ、2023年時点の台本になっているということも踏まえて、どんな葉子を演じられるのか考えました。今やるからこその『箱男』をどうやって作ることができるのかというところから考えて、その中で数少ない女性キャラクターとして葉子がいる存在意義など、広いところから考えていきました。
シャミ:
オーディション段階からそこまで考えて臨まれたんですね。役が決まり、撮影に入るにあたり、監督と葉子や物語について何か話し合ったことはありますか?
白本彩奈さん:
実は葉子を考える上で私の中で軸になった女性がいます。その方は原作者の安部公房さんとも長らく交流があった方で、そこから材料をたくさん得て、その上で石井監督とも役についてお話する機会を何度かいただきました。監督は、これは違うとか、そういったことは言わず、私はこう考えていますということに対して賛同してくださる方だったので、一緒に作っているんだという感覚になれました。
シャミ:
白本さんご自身が葉子像について監督に提案や相談されたこともあったということでしょうか?
白本彩奈さん:
はい。現場で相談させていただいたこともあります。実際に葉子を演じた時に、演じている私自身が違和感を持ってしまったら、きっとそれがすべて映ってしまうので、「これをこうするのはどうですか?」と相談しました。そしたら監督も他の方々もすごく時間をかけて聞いてくださって、一緒に考えてくれました。なので、本当に皆さんの協力を得て、ようやく成り立った葉子なんです。
シャミ:
本当に魅力的なキャラクターでした。葉子は箱男を誘惑する謎の女で、ミステリアスでとてもセクシーで、独特の雰囲気を放っていました。彼女を演じる上で特に気をつけたことや、意識された点はありますか?
白本彩奈さん:
まずはこの映画における葉子の役割を考えました。その中で女性と母性という二極化を明確に持とうと思いました。シーンごとに、これはどっちだろうと細かく考えて、それを軸にあとは思うがままに演じました。実際に完成した作品を観て、それはその時に私が考えた葉子で、でももし今作ったら違う葉子が生まれると思います。葉子は何者でもあると考えていたので、軸は母性と女性という部分ですが、他の部分はあまり人物像を敢えて固めようとはしませんでした。
シャミ:
なるほど〜。葉子というキャラクターに特に共感した点や、白本さんご自身と似ているところはありますか?
白本彩奈さん:
箱男の箱が何を意味しているのかという点は人それぞれの考えがあると思います。例えばそれがスマホだとすると、スマホに夢中になって本当に血眼になってSNSをやっていることに対して、私自身あまりスマホが得意ではなかったり、SNSも苦手なので、そういった点では葉子が箱男に一線を引くというところにすごく共感できました。
また、劇中にヌードシーンがありますが、私は普段人前で脱いだりすることはもちろんないので、どうして葉子は脱げるのかというところは考えないと、無意味なものになってしまうと思いました。そのバックグラウンドについては、よく考えて葉子に寄り添うようにしました。
シャミ:
箱男は、小さな箱の中で王国を作り、守られた状態で世界を一方的に覗いている人物で、SNSなどが活発となった現代社会とも通ずる部分があるように感じました。白本さんご自身は箱男をどのような存在だと捉えていましたか?
白本彩奈さん:
私自身は箱が匿名性みたいなものを表していると思ったので、本当に箱を被ったら誰でもないものだと思いました。また、女性の場合は社会的な見え方の部分だったり、一方的に評価をされてしまうこともまだ多くあるのではないかと思います。そういったところで危機感を覚えるというか、警笛を鳴らしてくれている存在が箱男だと思います。
葉子としては、服を脱いで体も心も丸裸にできる女性なので、一層箱男というものには嫌悪感を抱いていると思いますし、そういった箱男に対して良い印象を持っていないところは私と葉子とで繋がる部分でした。
シャミ:
箱男と葉子はすごく対照的でしたよね。そんな2人のぶつかり合いも見どころだと思いました。
白本彩奈さん:
ちょっとおもしろいシュールな場面もありますよね。
シャミ:
箱に人が入っているというだけで、かなりインパクトがありますし、全力疾走しているシーンなどもありましたね。
白本彩奈さん:
それでいて箱の中の人は一生懸命という、矛盾のようなものが可笑しな構図になっていて、現場ではそういった違和感を観客の方にぜひ伝えたいと思っていました。内容はパッと見すごくシリアスなのですが、実際はコメディに思えるようなシーンもたくさんあって、それを監督も他の出演者の方達もすごく大切にしていたので、現場はそのコメディの雰囲気をそのまま引き継いで和気あいあいとしていました。
シャミ:
楽しい現場だったんですね。本作には永瀬正敏さん、浅野忠信さん、佐藤浩市さんなど豪華キャストとの共演シーンもありましたが、一緒にお仕事をされていかがでしたか?
白本彩奈さん:
すごく刺激的でした。皆さん違ったアプローチでお芝居をされていて、唯一その3人の方と1対1で接することがあったのが葉子だったので、貴重な体験をさせていただき、こんな機会は今後きっとないだろうという気持ちで臨みました。本当に勉強になることがたくさんあり、いろいろな葉子を皆さんが引き出してくださったので、本当に皆さんに生かされての葉子だったと思います。
白本彩奈がやるこの役を見たいと思ってもらえる俳優になりたい
シャミ:
ここからは白本さんご自身についてお伺いしたいと思います。最初に俳優のお仕事に興味を持ったのはいつ頃でしょうか?
白本彩奈さん:
私は3歳の頃にこの業界に入り、なんとなく事務所に入れてもらって、流れに身を任せてというか、その時々で自分の心の弾むほうを選んでいったらここにいました。なので、芸能界に何か興味があったというよりも、人前で何かをしたいとか、人に見てもらうことが好きだったので、その気持ちのままに進んだら今に至るという感じです。
シャミ:
3歳から続けられて、これはお仕事なんだと意識されたタイミングはありましたか?
白本彩奈さん:
高校生くらいになってようやく責任感とか、お仕事なんだという意識が芽生えたように思います。本当に出会いや環境に恵まれて、楽しい思いをたくさんさせていただいたので、辞めようと思うことなくずっと続けてこられました。
シャミ:
俳優のお仕事を長く続ける上で、常に意識されていることですとか、何か気をつけていることはありますか?
白本彩奈さん:
お客さんに観ていただくお仕事なので、世界のエンタメのトレンドや、話題になった映画、注目されている作品など、観ている方がどういう感想を持って、どういう風に評価しているのかを知る必要があるし、そこについては敏感になったほうがいいと思うので、そういったアンテナは常に張るように意識しています。あとは、お芝居をするとなると、少なからず自分の人生や、自分の生活から材料をもらうことが多いので、自分の人生をいかに生きるのか。すごく壮大になりますが、とにかく毎日をどうやって生きて、何を見てどう感じるかということを意識して、何事もちゃんと感じようと思っています。
シャミ:
日常をヒントに役に活かせることがたくさんあるんですね。
白本彩奈さん:
すごくあります。例えば店員さんで少しクセのある方がいたとしたら、自分が演じる時にこの方のクセを真似しようと思ったり、そういう風に常に人を観察することも心掛けています。
シャミ:
プロフィールを拝見していて、映画はもちろん、ドラマや舞台など、いろいろなことをされていますが、これからチャレンジしてみたいことは何かありますか?
白本彩奈さん:
お芝居が本当に好きなので、まずはもっともっと幅を広げていきたいと思っています。あとは、アクションや殺陣が好きなので、そういったところも極めて、自分の武器にできたら良いなと思います。あとはラジオにもすごく興味があり、話すのも聞くのも好きなので、ラジオ番組を持つことも目標です。
シャミ:
声がすごく素敵なので、ラジオも向いてそうですね!
白本彩奈さん:
本当ですか!?ぜひ実現したら良いなと思います。
シャミ:
アクションや殺陣が好きということですが、役としてもアクション系をチャレンジされたいですか?他に興味のあるジャンルはありますか?
白本彩奈さん:
アクションはもちろん、本当にいろいろなことに興味があります。その時に私を求めてくださる場で、たくさん考えたいですし、役も私ができるものに染め上げていきたいなと思っています。将来的には白本彩奈にやって欲しい、白本彩奈がやるこの役を見たいと思っていただけるような俳優になりたいです。
シャミ:
では最後の質問です。これまでで1番影響を受けた作品、もしくは俳優や監督など人物がいらっしゃったら教えてください。
白本彩奈さん:
『タイタニック』です。本当に大好きで何度観ても、初めて観た時と同じ気持ちになれますし、歳を重ねるにつれてよりすごさを感じます。こんなにも人の気持ちを素直に動かせる映画ってやっぱり力があるんだと思います。映画に関わらずエンタメ業界であったり、映像が持つそういったエネルギーみたいなものを『タイタニック』を通してすごく痛感しました。このお芝居の世界で進んでいきたいと思ったのも、『タイタニック』がきっかけです。俳優さんに役が染みこんでいるのもすごいことですし、あんな風に人の心を動かせるような作品に私もいつか出られたら良いなと思います。
シャミ:
本当にずっと色褪せない作品ですよね。
白本彩奈さん:
そうですよね。どんどんバックストーリーが出てきたり、公開されなかった映像もあったりして。年を重ねて観直すと、また解釈が変わったり、すごく多面的な映画だと感じます。私もそんな映画に携わりたいですし、一員になれるように自分の引き出しを増やしていきたいと思います。
シャミ:
本日はありがとうございました!
2024年7月17日取材 Photo & TEXT by Shamy
『箱男』
2024年8月23日より全国公開
PG-12
監督:石井岳龍
原作:安部公房「箱男」(新潮社文庫刊)
出演:永瀬正敏/浅野忠信/白本彩奈/佐藤浩市/渋川清彦/中村優子/川瀬陽太
配給:ハピネットファントム・スタジオ
ダンボールを頭からすっぽりと被り、都市を徘徊し、覗き窓から一方的に世界を覗き、ひたすら妄想をノートに記述する「箱男」。カメラマンである“わたし”は、街で偶然箱男に遭遇したことをきっかけに心を奪われてしまう。そして、自らもダンボールを被り、ついにその一歩を踏み出すことに…。
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情報は2024年8月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
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