心理学

心理学から観る映画5:スターの心が壊れる理由【自己一貫性動機】

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映画『ジュディ 虹の彼方に』レネー・ゼルウィガー(レニー・ゼルウィガー)

人には自己を一貫したものにしようとする傾向があり、これを自己一貫性動機と言います。例えば、「私は綺麗好きだ」と思っている人の部屋がいつも綺麗なら一貫性がありますが、綺麗好きなはずなのに部屋が散らかっていると矛盾していることになります。そういった場合に人はどうするのでしょうか。2つの理論から考えたいと思います。

<参考・引用文献>
無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治(2018)「心理学」有斐閣
鹿取廣人・渡邊正孝・鳥居修晃ほか(2015)「心理学 第5版」東京大学出版会
堀洋道・吉田富二雄・松井豊・宮本聡介ほか(2009)「新編 社会心理学〔改訂版〕」福村出版
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめた上で、映画に関するところは本記事筆者の考察を掲載しています。

認知的不協和理論

フェスティンガーの認知的不協和理論は、「人間には自分の行動や感情も含めて、さまざまな事物・事象に関する知識のあいだに不一致がないような協和状態を求める傾向がある(「心理学 第5版」東京大学出版会より)」という前提に立っています。フェスティンガーとカールスミスは、不協和の解消について下記のような実験を行いました。

<実験内容>
実験参加者は1時間もかかるとても退屈な課題をさせられた後、隣の部屋で待っている学生に、この課題はとてもおもしろかったと伝えるように教示されました。実験参加と他の学生への伝言の報酬として、あるグループには1ドル、別のグループには20ドルが提示されました。実験参加者は他の学生へ伝言した後、実験の印象についてたずねられることもあれば、統制条件として課題直後に実験の印象をたずねられたグループもありました。この実験の結果、報酬が1ドルと提示されたグループのほうが、20ドルのグループよりも、「課題はおもしろかった」と報告しました。

これはどういうことでしょうか。フェスティンガーとカールスミスの考察によると、まず20ドルのグループは、つまらない課題をさせられたのにおもしろかったと嘘をつくように言われましたが、20ドルをもらえたことで自分の行動を正当化でき、不協和が小さかったということになります。一方、1ドルのグループは、つまらない課題をさせられた上におもしろかったと嘘をつかされても、報酬は1ドルしかもらえません。そこで「この課題は本当に楽しかったのだ」と思い込むことで、不協和を解消したと考えられています。

自己確証理論

一方、認知的不協和理論とは異なり、自分の世界で起きることを予測し、統制しようとすることで一貫性を保とうとする方法もあります。これは自己確証理論に基づいた考え方です。例えば、自分は若く見えると思っている女性が、近所の子どもから「おばさん」と呼ばれたことで一層美容や健康、服装やメイクなどに気を使い、努力をするといったケースが当てはまります。これは自己概念に反する情報を受けて、自己概念を維持する動機に繋がったと考えられます。自己概念は自覚するだけでなく、他者からの情報や態度によっていっそう補強されます。なので、次のような場合も考えられます。自分自身に否定的な自己概念を持つ人は、肯定的に見てくれる他者よりも、否定的に見る他者を好むということになります。それは自己概念と一致するからです。

スターの場合、そもそも作られたスター像があります。それを強いられている場合、自らそうしたほうが良いと思ってやっている場合、いずれにしても、多少の不協和は生じているはずです。
フェスティンガーらの実験のように、不協和があっても得られるものなどに満足していて正当化できるうちは耐えられるのかも知れません。また、自己確証理論の観点から、デビュー当時など向上心があり自分も皆が求める理想像に近づきたいと思えているうちは、自分の中で一貫性が取れていない部分を補う努力をする気力を維持できるとも考えられます。

ただ、お金や名声は得られても、一方で失うものの大きさにも気付いていった場合はどうでしょうか。「そこまでして、こんなことをする意味があるの?」「これ以上、いつまで自分を偽るの?」「どれが私?」という考えが出てきてもおかしくありません。

映画『ジュディ 虹の彼方に』レネー・ゼルウィガー

『ジュディ 虹の彼方に』では、実在したスター、ジュディ・ガーランドの半生が描かれていますが、彼女が強いられてきたことも過酷で、彼女が失ってきたものも大きいことがわかります。スターにも当然ながら、一人の人間としての人生があります。ジュディの場合、妻として、母としての自分はどうありたいかといった部分もあったでしょうし、若い頃は一人の女の子として経験してみたいことなどもたくさんあったと思います。

でも、スターのプライベートは侵害されることも多いし、関係者からも管理、干渉されます。他者の意志や価値観を押しつけられ、それに合わせているうちに自己の一貫性は脅かされていくはずです。それが限界を超えた時、自分で抱えきれない部分がさまざまな形に表れ、時にそれがスキャンダルとなって、さらに本人を追い詰めていくことになります。

スターであるからこそ、彼、彼女達の輝く姿をいつまでも観たいと思うのは、ファンや一般庶民からすれば当然ですが、一方でそんな彼らを応援したいならば、彼らにも“自分に戻る”時間や場所、状況が持てるように理解を示したいなと思います。

もちろん、これはスターに限ったことではありません。情報社会になり、さらにSNSが流行して、一般人でも他者の目を意識する機会が増えたことで、こういう問題に陥る可能性が一層高くなったのではと感じます。心が健康なうちは日々微調整をして、自己の一貫性を保てているのだと思いますが、無理をしているなと思ったら、どこかにぜひ自分自身になれる場所を作ってください。

映画『ジュディ 虹の彼方に』

『ジュディ 虹の彼方に』
2020年3月6日より全国公開
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

2歳半で芸能界に入り、17歳で出演した『オズの魔法使い』で大ブレイクしたジュディ・ガーランドの実話をもとに、彼女の少女時代と急逝する直前の日々を描く。

映画『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』キット・ハリントン

『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』PG-12
2020年3月13日より全国公開
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

スターになるため“本当の自分”を犠牲にしたドノヴァンは、ある少年にだけ手紙で素顔を見せていた。

映画『ポップスター』ナタリー・ポートマン

『ポップスター』
2020年6月5日より全国公開
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

銃乱射事件の被害にあった少女が奇跡的に助かり、ポップスターへ。だが彼女が抱えた傷はスターになることでは癒されず…。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』ラミ・マレック/グウィリム・リー

『ボヘミアン・ラプソディ』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

ボヘミアン・ラプソディ (字幕版)

伝説のバンド“クイーン”の結成から音楽史上に残る“ライブエイド”のステージの瞬間まで、フレディ・マーキュリーの苦悩を軸に描いた人間ドラマ。

映画『アリー/ スター誕生』ブラッドリー・クーパー/レディー・ガガ

『アリー/ スター誕生』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

アリー/ スター誕生(字幕版)

世界的シンガーのジャクソンと、彼に見出されスターダムを駆け上がろうとする女性の物語。2人の対比が、スターが持つ希望と絶望を投影している。

映画『マリリン 7日間の恋』ミシェル・ウィリアムズ
『マリリン 7日間の恋』

『マリリン 7日間の恋』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

マリリン 7日間の恋 (字幕版)

36歳の若さでこの世を去ったマリリン モンロー。この彼女の1つの恋の物語から、彼女が独りで抱えていた苦悩が垣間見える。

映画『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』ニコール・キッドマン

『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
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グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札(字幕版)

世界的に知られる大女優から、モナコ公妃となったグレース・ケリーの実話をもとに映画化。世界的スターという点だけでなく、モナコ公妃として、苦悩は何倍、何十倍にも…。

『ピンクとグレー』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中 
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ピンクとグレー

原作はジャニーズ“NEWS”のメンバー、加藤イゲアキが書いた同名小説。アイドルから見た世界はこんな風に見えてるのかと、想像を掻き立てられる。

© Pathé Productions Limited and British Broadcasting Corporation 2019
©THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.
Motion Picture ©2018 Vox Lux Film Holdings, LLC. All Rights Reserved

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

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REVIEW

  1. 映画『SEBASTIANセバスチャン』ルーアリ・モリカ
  2. 映画『喝采』ジェシカ・ラング
  3. 映画『YADANG/ヤダン』カン・ハヌル
  4. 映画『架空の犬と嘘をつく猫』高杉真宙/伊藤万理華/安藤裕子/向里祐香/安田顕
  5. 映画『おくびょう鳥が歌うほうへ』シアーシャ・ローナン

PRESENT

  1. 映画『アウトローズ』ジェラルド・バトラー
  2. 映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』チャージングパッド
  3. 映画『ただ、やるべきことを』チャン・ソンボム/ソ・ソッキュ
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