心理学

心理学から観る映画1-2:連続殺人犯の目覚め“性的錯誤”

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虐待イメージ写真AC

前回は、犯罪者は先天的か後天的かというお話から、連続殺人犯の共通点の1つ目について触れました。今回は2つ目の共通点“性的錯誤”についてです。

<参考資料>
『犯罪者と狂気の火種』Netflix/ドキュメンタリー
小西聖子、伊藤晋二(2003)「犯罪心理学―加害者のこころ、被害者のこころ (武蔵野大学通信教育部テキストシリーズ)」(角川学芸出版)
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめたものです。

今回の本題に入る前に、前回の内容で犯罪者の先天的要素の研究について少し補足します。

犯罪者についての研究はさまざまな分野で行われていますが、その先駆けとなる研究を行ったのが、19世紀イタリアの精神科医ロンブローゾです。彼は生来犯罪者説(1876)を提唱し、「犯罪者は一定の身体的・精神的徴候によって特徴づけられる生来的に特異な人類的類型で、隔世遺伝ないし変質に基づく未開人や小児に類似する病的な変異であり、ほとんど宿命的に犯罪者に陥る」という概念をもたらしました。ここで、“変質”という言葉が出てきますが、これは19世紀ヨーロッパで広まった概念で、精神医学に導入したモレルは、「精神疾患も1つの変質である」と述べています。
ロンブローゾの学説はこの時代の差別的な人間観によって発展したもので、今では否定されています。ただ彼の研究がのちの犯罪学の人類生物学的研究を推し進めるきっかけとなりました。

また、体型と性格についての研究では、クレッチマーの研究が有名です。簡単に説明すると、

<体型>―<気質>
細長型(やせ型)―分裂気質
肥満型(ふとり型)―循環気質
闘士型(筋骨型)―粘着気質(てんかん気質)

という類型学です。さらにシュワープはクレッチマーの研究をもとにそれぞれの体型と犯罪の特徴、犯罪初発年齢等の関係を研究しました。

【注意】この研究は、犯罪者を体型と性格で分類したもので、統合失調症やてんかん患者など精神疾患をお持ちの方が犯罪を起こしやすいということを意味しているのではありませんので、誤解なきようお願いします。

このほか、犯罪者になりうる遺伝的、先天的な要素があるのかどうかを調べる犯罪生物学においては、家計調査法、双生児法がありますが、やはり断定できる結果は出ていません。

性への目覚めをきっかけに歪んだ欲望が芽生える

連続殺人犯にまつわる研究者の証言をまとめたドキュメンタリー『犯罪者と狂気の火種』では、幼少期の性的虐待が、のちの連続殺人の引き金になる可能性に触れています。劣悪な環境で育てられた場合、極度に社会から孤立していたり、社会への憎悪を抱くきっかけが身近にあります。そんな環境下では自暴自棄となり、異常な性的行動に興味が向くと言います。彼らの空想の中では性的な考えと暴力が結びついていて、極端に暴力的なことに性的興奮を覚えるというわけです。10代になるまではそういった性的嗜好は表面化しませんが、思春期になり性に目覚めると、危険な性的空想が犯罪の引き金になることもあると考えられています。
その例として、人を殺害した後に遺体の肉を食べていたというジェフリー・ダーマーのケースが挙げられています。彼は10歳の時に隣人から性的虐待を受けたと主張していて、17歳の時に離婚した両親とも家から出ていったため、ジェフリーは空想癖を抱えたまま1人で残されたそうです。

連続殺人犯を擁護するつもりはありませんが、もし両親や身の回りの人が彼に手を差し伸べ、愛を伴う人間同士の性的関係についても教えていたらと考えずにはいられません。

ジェフリー・ダーマー Dahmer

『ジェフリー・ダーマー』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中
R-18+
18歳で初めて殺人を犯した実在した凶悪連続殺人犯ジェフリー・ダーマーから着想を得たフィクション。ジェフリーをジェレミー・レナーが演じる。

次回は、連続殺人犯の脳についてです。

トップのイメージ写真は、photoBさんによる写真ACからの写真です。

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

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PRESENT

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  3. 映画『ムガリッツ』
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