心理学

心理学から観る映画1-3:犯罪と脳

  • follow us in feedly
  • RSS
殺人イメージ写真AC(包丁)

先天的な理由の一つとして、脳の神経構造の研究が行われています。果たして、連続殺人犯の脳と、一般の人の脳に違いはあるのでしょうか?

<参考資料>
岡田隆、宮森孝史、廣中直行(2015)「生理心理学 第2版―脳のはたらきから見た心の世界―」(サイエンス社)
『犯罪者と狂気の火種』Netflix/ドキュメンタリー
下記は、上記で語られている内容から一部引用しまとめたものです。

攻撃行動に関わる脳の部位として、視床下部、中脳中心灰白質、扁桃体、中隔野、前頭眼窩野などが挙げられます。

犯罪者についての研究を綴ったドキュメンタリー『犯罪者と狂気の火種』では、2013年の犯罪学者エイドリアン・レイン教授による、「殺人者の脳は普通の人と違い、自己認識能力や感情、暴力への感性に関する部分の活動が低下していた」との発表を取り上げています。さらにこのドキュメンタリーの中では、普通の人の脳、殺人犯の脳と、連続殺人犯の脳はさらに異なっていたと述べられており、殺人犯の脳は前頭前野の機能が低下していたのに対して、連続殺人犯の脳は前頭前野が高度に機能していて、逆に扁桃体の機能が低下していて、物理的に約18%収縮していたとしています。

前頭前野とは、他の動物と比べてヒトが特に発達している脳部位です。この部分の働きについて説明するために、前頭葉損傷の古い事例でフィネアス・ゲージという患者の1848年の事例を紹介します。鉄道工事の現場監督だったゲージは、パイプで前頭部を打ち抜かれる事故に遭ってから、性格が一変し、気紛れで傲慢な男になったとされています。また、1950年頃まで前頭葉ロボトミー手術を盛んに行った結果、積極性が消失してしまいました。
さらに前頭葉損傷による、さまざまな知的機能の障害も報告されています。「生理心理学 第2版―脳のはたらきから見た心の世界―」(サイエンス社)から引用すると、「何かをするふりができなくなる抽象的態度喪失や、行動の手順を決めて実行することが困難になる行動プログラミング障害、時間的な順序の弁別が困難になるという障害が生じる」ということです。また同書では、「1966年から2000年までの間に公刊された論文を調べ上げた研究によると、前頭葉の局所的な機能不全と攻撃的な衝動制御の臨床的相関関係はあるとされている」ことを記しつつ、攻撃行動と犯罪が直結するかどうかは別問題としています。

一方、連続殺人犯の脳で機能低下していた扁桃体は、破壊すると静穏化し、外界の刺激の評価を通じて攻撃行動に何らかの役割を果たしているとされています。
扁桃体は、情動に深く関わる部分です。また扁桃体は恐怖条件づけの成立においても重要な部位の1つとされています。1937年に発表されたクリューバー=ビューシー症候群の研究では、扁桃体を切除したサルが口唇傾向(何でも口に持っていく傾向)、性行動の亢進、恐怖心や攻撃性の喪失といった変化を見せたことを報告しています。

ここからは私の考察も入りますが、本連載の1回目で、連続殺人犯の多くが過去に虐待を受けていたことはお伝えしました。虐待は脳にダメージを与えると報告している研究もあり、扁桃体の機能低下に関与しているのではないかと考えられます。また扁桃体の機能が低下しているということは、共感、良心、罪悪感といった感情が乏しくなることに繋がります。もちろん、扁桃体の機能が低下している人が皆そうなるということでは決してありませんが、共通点の1つとして挙げられていることには一理あるのではと思います。

ドキュメンタリー『犯罪者と狂気の火種』では、こういった神経機能の低下から、連続殺人犯は恐怖を感じにくくなり、刺激に鈍感になっていて、結果を恐れず、さらなる刺激を求めて、犯行を繰り返すのではないかと分析しています。犯行に及ぶ度に「思ったほどではなかった」と落胆し、次は自分の空想(理想)にもっと近づけようとさらに手口を改善して何度も繰り返すのです。また、特定の人物に向けた怨恨などで人を殺すのではない点で、犯人と被害者に接点が少なく、逮捕に繋がりにくいと考えられています。

ここまで連続殺人犯の特徴や共通点を取り上げてきましたが、連続殺人犯の動機や行動に、常識は通用しないのだと痛感しました。だからこそ身近にいても気が付かないのだと思います。

ジョン・ゲイシー Gacy

『ジョン・ゲイシー Gacy』
Amazonプライムビデオにて配信中(レンタル、セルもあり)
DVDレンタル&発売中
R-18+
殺人ピエロの異名を持つジョン・ゲイシーの犯行手口を描くホラー映画。彼は表の顔は、大会社の社長にして地元の自治会長、裏の顔は連続殺人鬼だった。

次回は、犯罪者の責任能力について取り上げます。

トップのイメージ写真は、AC-acworksさんによる写真ACからの写真です。

TEXT by Myson(武内三穂・認定心理士)

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『WEAPONS/ウェポンズ』 WEAPONS/ウェポンズ【レビュー】

ある町から突然17人の子どもが同時に行方不明になるところから始まる本作は、“IT/イット”“死霊館”シリーズなど、傑作ホラーを多数世に送り出してきた…

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『ナイトフラワー』北川景子/森田望智 ナイトフラワー【レビュー】

『ミッドナイトスワン』で第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した内田英治監督が、“真夜中シリーズ”と銘打つ本作は…

映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン 『Fox Hunt フォックス・ハント』一般試写会 5組10名様ご招待

映画『Fox Hunt フォックス・ハント』一般試写会 5組10名様ご招待

映画『新解釈・幕末伝』山下美月 山下美月【ギャラリー/出演作一覧】

1999年7月26日生まれ。東京都出身。

映画『もういちどみつめる』筒井真理子/髙田万作 もういちどみつめる【レビュー】

「18・19歳の厳罰化を目的とした、2022年の少年法改正に対して抱いた疑問から制作を始めました」(映画公式サイト、佐藤慶紀監督)とあるように…

映画『喝采』ジェシカ・ラング 『喝采』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『喝采』一般試写会 10組20名様ご招待

映画『ヒックとドラゴン』メイソン・テムズ メイソン・テムズ【ギャラリー/出演作一覧】

2007年7月10日生まれ。アメリカ生まれ。

「Kodansha Studios 設立発表会見」野間省伸(株式会社講談社 代表取締役社長)、 クロエ・ジャオ(Kodansha Studios 最高クリエイティブ責任者)、 ニコラス・ゴンダ(Kodansha Studios COO) 映画業界に新風を吹かせられるか?2025新レーベル発足および官民の取組みまとめ

今回は近日発足された新レーベルと、官民の取組みについてまとめて紹介します。

映画『果てしなきスカーレット』 果てしなきスカーレット【レビュー】

細田守が原作、脚本、監督を担当した本作は、16世紀のデンマークの王女、スカーレットが主人公です。細田監督は…

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画学ゼミ2025年12月募集用 人間特有の感情や認知の探求【映画学ゼミ第3回】参加者募集!

今回は、N「湧き起こる感情はあなたの性格とどう関連しているのか」、S「わかりやすい映画、わかりにくい映画に対する快・不快」をテーマに実施します。

映画『悪党に粛清を』来日舞台挨拶、マッツ・ミケルセン 映画好きが選んだマッツ・ミケルセン人気作品ランキング

“北欧の至宝”として日本でも人気を誇るマッツ・ミケルセン。今回は、マッツ・ミケルセン出演作品(ドラマを除く)を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。上位にはどんな作品がランクインしたのでしょうか?

映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』ウェス・アンダーソン監督 映画好きが選んだウェス・アンダーソン監督人気作品ランキング

今回は、ウェス・アンダーソン監督作品を対象に、正式部員の皆さんに投票していただきました。人気作品が多くあるなか、上位にランクインしたのは?

学び・メンタルヘルス

  1. 映画学ゼミ2025年12月募集用
  2. 映画『エクスペリメント』エイドリアン・ブロディ
  3. 映画学ゼミ2025年11月募集用

REVIEW

  1. 映画『WEAPONS/ウェポンズ』
  2. 映画『ナイトフラワー』北川景子/森田望智
  3. 映画『もういちどみつめる』筒井真理子/髙田万作
  4. 映画『果てしなきスカーレット』
  5. 映画『ブラックフォン2』イーサン・ホーク/メイソン・テムズ

PRESENT

  1. 映画『Fox Hunt フォックス・ハント』トニー・レオン
  2. 映画『喝采』ジェシカ・ラング
  3. 映画『TOKYOタクシー』オリジナルパラパラメモ
PAGE TOP