前回は、「好きな監督」を参考にする度合いについて、
●比較B:「洋画ファン」「邦画ファン」「どちらも同じくらい好き(両方好き)」というグループ別(被験者間)
●比較C:洋画を選ぶ際、邦画を選ぶ際(被験者内)
を分析します。
今回は、「人気監督」を参考にする度合いについて、
●比較B:「洋画ファン」「邦画ファン」「どちらも同じくらい好き(両方好き)」というグループ別(被験者間)
●比較C:洋画を選ぶ際、邦画を選ぶ際(被験者内)
を分析します。
※説明が専門的になってしまう部分がありますので、ざっくりとした結果が知りたい方は、「まとめ」をご覧ください。
データ:映画研究2:洋画と邦画の作品選びの傾向アンケート
回答期間:2022/11/28 12:00〜2023/01/15 23:59
回答数:10代を含む430名の女性
<手順>
アンケートの中で下記の問いに対して、5択で答えていただきました。
Q:観る洋画を選ぶ際に、人気監督が手掛けているかどうかはどれくらい参考にしますか?
Q:観る邦画を選ぶ際に、人気監督が手掛けているかどうかはどれくらい参考にしますか?
0:まったく参考にしない
1:あまり参考にしない
2:どちらともいえない
3:まあまあ参考にする
4:とても参考にする
上記の平均値をもとに、2要因分散分析(混合計画)を行いました。
※帰無仮説の有意水準:0.05(=5%)
※Figure4は、Table12を折れ線グラフにしたものです。
※Table13、14は、統計的(確率論的)に意味のある差、つまりこのデータに限り偶然的に出た差ではなく、統計上、一般化しても同じことがいえるかどうかを検定した結果です。
※「自分が好きな監督が手掛けているかどうか」→「好きな監督」、「一般的に人気の監督が手掛けているかどうか」→「人気監督」と略します。
※「どちらも同じくらい好き」→「両方好き」と略します。
※JASPを使った分析。
洋画を好む度合いについて、「洋画ファン」>「両方好き」>「邦画ファン」という解釈をもとに以下を述べていきます。
邦画を好む度合いについて、「邦画ファン」>「両方好き」>「洋画ファン」という解釈をもとに以下を述べていきます。
Table12は、上記の5択で付けたポイントの平均値と標準偏差です。これを折れ線グラフにしたのが、Figure4です。「両方好き」は、洋画選択時も邦画選択時も「人気監督」の作品かどうかを同じくらい参考にする傾向がうかがえます。
「両方好き」に関しては、前回の「好きな監督」の結果と同様に、洋画選択時も邦画選択時もあまり差がありません。


洋画選択時については、「両方好き」「洋画ファン」「邦画ファン」の順でなだらかに点が下がっています。Table13の被験者内「洋画選択時・邦画選択時」のp値を見ると、p=0.5となっており有意差はありません。つまり、洋画選択時と邦画選択時という違いだけでは、結果に影響を及ぼしていないということになります。

一方、Table13の(被験者内)「洋画選択時・邦画選択時 *洋画派or邦画派」の結果を見ると、η2=0.023(p<.001)となっており、効果量はわずかながら交互作用が有意となっています。Figure4も見てみると、グラフが交差しています。このことから交互作用が働いていることがわかります。合わせて、Table13の(被験者間)の結果も見ると、「洋画派or邦画派」はp=0.002となっていて、5%水準で有意であることがわかります。つまり「洋画選択時と邦画選択時」と「グループ」の両方の要素が揃った時に有意な交互作用が働くということです。ただし、η2=0.022とかなり低いため、グループの違いによる効果量もわずかといえます。
では、どのグループに交互作用があるのかを知るために、Table14「単純主効果の検定」を見てみましょう。「洋画ファン」「邦画ファン」が共にp<.001で有意となっています。このことから、洋画ファンと邦画ファンについては、洋画選択時か邦画選択時かで交互作用が働くということになります。

Figure4から、洋画ファンも邦画ファンもそれぞれ好きなカテゴリーで作品を選ぶ際(洋画ファンは洋画、邦画ファンは邦画)のほうが、好きではないカテゴリーで作品を選ぶ際よりも、人気監督の作品かをより参考にしているといえます。これは前回の好きな監督と同じですね。ただし、「好きな監督」「人気監督」は、「映画と人の研究5」「映画と人の研究6」で比較した通りの違いはあります。

まとめ
- 洋画も邦画も「両方好き」な人は、洋画選択時、邦画選択時で「人気監督」の作品かどうかを参考にする度合いは同じ程度である。
- 洋画ファンも邦画ファンも、好きではないカテゴリーの映画を選ぶ際よりも、好きなカテゴリーの映画(洋画ファンは洋画、邦画ファンは邦画)を選ぶ際のほうが、「人気監督」の作品かどうかを参考にする度合いが高い。程度は異なるとはいえ、これは「好きな監督」と同じ傾向である。
監督の参考度については以上です。比較の視点を、「好きな監督・人気監督」「洋画選択時・邦画選択時」で分析してきました。洋画ファンと邦画ファンでは作品選びの傾向に若干違いがあるようです。
普段あまり観ないカテゴリーだからこそ人気監督の作品かどうかを参考にするのではと思ったものの、特に洋画ファンは邦画選択時に人気監督の作品かどうかをあまり参考にしていないとみられます。このことから、邦画ファンはたまに洋画も観るけれど、洋画ファンはそもそも邦画をほとんど観ないのではないかと推測されます。ここまでで新たに出てきた仮説については、また別の機会に掘り下げたいと思います。
次回からは俳優について分析していきます。
注目の監督作品

『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』
2023年5月12日より全国公開中
PG-12
ジェームズ・グレイ監督作
パルコ、ユニバーサル映画
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定

『波紋』
2023年5月26日より全国公開
荻上直子監督作
ショウゲート
公式サイト REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
© 2022 Focus Features, LLC.
©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ
TEXT & ANALYSIS by Myson(武内三穂)
