今回は、女優と映像作家、両方の顔を持つ小川紗良さんにインタビューをさせて頂きました。『ビューティフルドリーマー』では、役柄が映画監督ということで、学生時代から続けている映像作家としての視点などもお話を伺いました。また日本映画界についてのお話からは、どんな仕事でも同じように大切な心構えを聞かせて頂き、身が引き締まったと同時にパワーもいただきました!
<PROFILE>
小川紗良(おがわ さら):サラ 役
1996年6月8日生まれ、東京都出身。高校生の頃から芸能活動をスタート。同じ頃、映像制作にも興味を持ち始め、大学時代には監督として短編・中編映画を制作。卒業後、初の長編映画『海辺の金魚』で長編映画監督デビューを果たした。女優としては、NHK連続テレビ小説『まんぷく』で安藤サクラが演じた主人公の娘役を好演。他に、主なドラマ出演作として『ブラックスキャンダル』『向かいのバズる家族』『アライブ がん専門医のカルテ』などがある。映画出演作は、『イノセント15』『聖なるもの』など。
飛び込む勇気よりも続ける覚悟が必要
マイソン:
小川さんは大学時代に映画を作られたとお聞きしていますが、芸能活動も同じ頃からスタートされたんでしょうか?
小川紗良さん:
芸能活動も映像作りも高校生の時に始めていて、厳密にいうと作るほうが先でした。
マイソン:
映画を作るほうから先に興味を持ったんですか?
小川紗良さん:
最初は学校行事のドキュメンタリーをずっと撮っていて、そこで初めて映像作りに触れて、単純に映像を作るのがおもしろいと思いました。それとは別で女優業を始めて、女優として映像作りに携わるのも楽しいと感じたので、それぞれ別々に歩んできたという感じです。
マイソン:
両方やっていて助かっている部分はありますか?
小川紗良さん:
助かってるというか、良くも悪くも相互作用があります。良い部分は自分で脚本を書いたりもするので、女優として出演する時も作者の意図が読み取りやすくなったということはあります。でも逆にいろいろ見え過ぎるせいで雑音が多い時もあって、できる限り、女優の時は女優、監督の時は監督でスイッチを切り替えるようにしています。
マイソン:
なるほど〜。今作では、女優として映画監督役ということでしたが、演じてみていかがでしたか?
小川紗良さん:
今回は即興芝居が取り入れられていて、話の大筋とか与えられたシチュエーションはあったんですが、余白部分は自分達で埋めていくという感じだったので、あまり演じているという感覚がありませんでした。皆のチームワークと会話のリレーで必死に繋いでいったという感じだったので、不思議な現場でしたね。
マイソン:
即興で広がった部分とか、逆に難しかった部分はありましたか?
小川紗良さん:
基本的に難しくて大変でした。私達もこれまで即興芝居をそんなにやったことがなかったので、本番に入るまでの期間で即興芝居の稽古をたくさんやりました。そのなかで皆が団結して現場で楽しめたってことが、即興芝居を乗り越えた要になったかなと思います。
マイソン:
即興芝居って難しそうですよね。では話題が変わりますが、プライベートで映画を観る時に、思わずこういうところを観てしまうというところはありますか?
小川紗良さん:
普通に楽しんで、集中して観ます(笑)。
マイソン:
そうですよね(笑)。作品を選ぶ時はどうやって選びますか?
小川紗良さん:
その日の気分とか、なるべく映画館で観るようにしているので最新作を観たりしますし、配信で新しい作品が入って気になると観たり、幅広く観るようにしています。
マイソン:
学生の時から映画を作ってらっしゃるということは、周りに映画が好きな方が多いんじゃないかと思うんですが、お友達から刺激を受けて観るようになった作品とかはありますか?
小川紗良さん:
早稲田大学に通っていた時は、近くにある早稲田松竹という名画座に映画サークルの子達とオールナイトで観に行ったり、そこで好きな作品に出会ったりということはありました。
マイソン:
その時にすごくハマった監督とか、作品はありますか?
小川紗良さん:
オールナイト上映では、過去の爆発的な名作とか結構力強い傑作とかが上映されていることが多くて、石井聰亙(現:石井岳龍)監督の『逆噴射家族』などを観たのを覚えています。あと新文芸座だったかもしれませんが、『悪魔のいけにえ』とかスプラッター系の激しい映画なども皆で深夜に観るのが楽しかったですね。
マイソン:
観終わった後は、どっぷり映画の話をするんですか?
小川紗良さん:
いや、オールナイトの後は皆疲れてるので、放心状態で帰るという感じでした(笑)。
マイソン:
ですよね(笑)。そういう作品は、小川さんが作る映画にも影響していますか?
小川紗良さん:
もちろんいろいろな作品を観て、ちょこちょこ影響を受けているものはあると思います。
マイソン:
高校生の頃から映画を作られていて、ご自身の中でここだけは変わらないという部分はありますか?
小川紗良さん:
大学の時に3本短編・中編映画を撮って、去年初めて長編を1本撮って、まだまだいろいろなことに挑戦しながら、自分のやりたいことや作家性を探っているところなので、今はこれだけは譲れないと固めることなく、本当にいろいろその場その場で描きたいものを純粋に撮っているという感じです。
マイソン:
では、今まで大きな影響を受けてとても印象に残っている作品、もしくは大きな影響を受けた映画監督や俳優がいれば教えてください。
小川紗良さん:
大林宣彦監督の尾道三部作(『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』)がすごく好きです。尾道という場所で傑作を3本撮られているわけですけど、地域に特化した撮り方がすごく良いなと思います。私自身昨年初めて長編を撮った場所が、鹿児島県の阿久根市というところなんですけど、学生時代もそこで短編を撮っていて2回目なんです。そういう風に自分に縁のある一つの場所で映画を作り続けるっていうのは、大林監督のやり方を見ていて憧れがあります。
マイソン:
大林宣彦監督作品も含め、旧作にも良い映画がたくさんありますよね。今映画業界はコロナで大変ですが、若い方にもっと映画を観てもらうには、どういうところを伝えれば良いと思いますか?
小川紗良さん:
若い人も映画を作れる機会があったり、ちゃんとクオリティを上げて国内だけじゃなく世界に出せるようなものを作ることが、結果的に若い方がまた映画を観に来てくれることになると思います。韓国映画で例えば『パラサイト 半地下の家族』とか、皆若い方も興味を持って観に行くわけじゃないですか。韓国の映画界はちゃんと外に意識を向けて、しっかりクオリティがあるものを作っているということだと思うんです。
マイソン:
国外の映画祭などと連携して日本の映画を海外に普及する立場のお仕事をされている方にお聞きした話で、日本の映画業界は内向きなところがあるとおっしゃっていました。
小川紗良さん:
私も韓国の映画祭に行った時に、若いお客さんがすごく多くてビックリしましたし、ちゃんと外に向けて作っていかないとダメだなと思いました。
マイソン:
今コロナで撮影しづらい状況ではありますけども、だからこそいろいろと見つめ直して、丁寧に作っていく機会かもしれないですね。今コロナの影響もあって、だいぶ社会が変わってきていて、これから社会に出ようとされている若い方も不安に思うところが大きいと思います。小川さんから何かアドバイスがあればお願いします。
小川紗良さん:
どの道に進んでも、どんな時代でも不安は尽きないと思うし、確かなものってほとんどないので、自分の好きなこと、やりたいことをぶれずに、それが仕事ではなかったとしても、追い続けることなのかなって思います。
マイソン:
映画の世界に憧れる人は多いと思いつつ、狭き門だと思います。一歩踏み出せる人、踏み出せない人の違いって何だと思いますか?
小川紗良さん:
一歩踏み出すのは実はそんなに難しいことではないのかなと思っています。踏み出しちゃえば進んじゃうので。結局難しいのはそこから続けることなのかなと思っていて、映画界も狭き門って思われがちなんですけど、実は私も映画サークルで1本映画を撮ったのが最初です。すごく身近なところでそんなにハードルも高くなく、飛び込めちゃう世界ではあるんです。でもそこから先、仕事にしてちゃんと撮っていくとなると難しいわけで、飛び込む勇気よりも続ける覚悟みたいなところが必要なのかと思います。私もまだまだ道半ばですが、そう思います。
マイソン:
ありがとうございました!
2020年8月13日取材 PHOTO&TEXT by Myson
『ビューティフルドリーマー』
2020年11月6日より全国公開
監督:本広克行
出演:小川紗良/藤谷理子/神尾楓珠/内田倭史/ヒロシエリ/森田甘路/斎藤工/秋元才加/瀧川英次/升毅
配給:エイベックス・ピクチャーズ
先勝美術大学の校内は、明日開催の文化祭の準備に追われていた。そんななか、映画研究会では、部員のサラが不思議な夢を見たのをきっかけに部室で見つけた古い脚本と演出ノート、そして1本の16mmフィルムを巡る話でざわついていた…。
©2020映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会